生命保険

事業費率から見る顧客本位の「本気度」

読者の皆さまは保険商品の保険料に含まれる経費の割合や、保険料の還元率をご存知ですか? 運営にかかる経費の多寡は商品やサービスの品質に大きく影響します。ぜひ関心を持ってほしいと思っています。

執筆者:後田 亨

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運営にかかる経費の多寡は商品やサービスの品質に大きく影響

生命保険の分野では、消費者は「契約に要する費用」を把握できない

生命保険の分野では、消費者は「契約に要する費用」を把握できない

巷間、「顧客本位」であることを標榜しない金融機関はないと思います。ただ、私見では、それが建前のように感じられる商品やサービスも少なくありません。

たとえば、生命保険の分野では、消費者は「契約に要する費用」を把握することができません。投資信託では、販売手数料や運用期間中にかかる費用が開示されていて、極力費用が抑えられている投信を選べることを思うと、素朴に不親切だと感じます。

保険や共済で加入者に給付される「入院給付金」などの原資は、言うまでもなく加入者が支払う掛け金です。ただし、掛け金の全額が原資になるわけではありません。代理店を通して販売されている業態では代理店への手数料が発生する分、加入者に各種給付金として還元されるお金の割合は減るのです。

つまり、保険や共済は「お金(掛け金)で、お金(各種給付金)を用意する手段」であることから、運営にかかる経費の多寡は商品やサービスの品質に大きく影響すると考えられるのです。
 

加入者に還元されるお金の割合は極めて重要な情報

生命保険の保険料にはあらかじめ「見込み」で、保険会社の運営のためにかかる経費が含まれています。たとえば、ライフネット生命は商品別にその割合を開示しているため、40歳の男性が「終身医療保険(エコノミーコース)」に加入するとしたら、「2,000円の保険料のうち395円が経費に使われる見込みである」などと知ることができます。

経費率にして19.8%です。もちろん、経費に限らず、給付金の支払い額や支払い発生確率なども商品設計の段階では見込みに過ぎないため、実際に20%近い経費が引かれることになるのかは誰にもわかりません。

それでも、加入者に還元されるお金の割合について、大まかに想像することができるのですから、極めて重要な情報には違いありません。

ライフネット生命以外の会社が、このような情報を開示していないのは都合が悪いからかもしれません。ライフネット生命の死亡保険の保険料との比較から、保険料に含まれる経費率が60%超(!)と見られるような保険もあるからです。「顧客本位」とは単なるお題目ではないかと感じる例です。
 

相対的に良心的な運営がなされているのは……

保険料に含まれる経費の割合がわからない中、私が関心を持っているのは各社の保険料収入に占める「事業費」の割合です。こちらは見込みではなく「実績」です。各社ホームページにアクセスして決算資料から確認できます。

その際、3点を意識することにしています。まず、貯蓄商品が多いと事業費率は下がります。将来、保険料総額を上回る額のお金を返金することを約束する貯蓄商品では、保険料に数十%にも及ぶ経費を含ませることは難しいからです。実際、銀行窓口などで資産形成・運用目的の商品を中心に売っている会社では、事業費率は一桁台です。

次に、保険料収入が多くなると事業費率は下がると考えられます。年収が上がると家計に占める食費の割合が下がるイメージです。分母が大きくなることで、必要経費の割合が下がると見られるのです。実際、企業年金などを扱っている大手生保の事業費率が10%前後に落ち着いているのは、大口の貯蓄商品の扱いがあるうえに、規模の面から保険料収入が高いことも影響しているはずです。

最後3点目に意識していることは、「医療保険」など掛け捨ての保険の売り上げが多く、規模は大手ほどではないA社やB社などの場合、事業費率は20~30%であることです。掛け捨ての保険に見込みで含まれている経費の割合について、改めて考えさせられるのです。
2016年度ディスクロージャーより

2016年度ディスクロージャーより(※単位未満を四捨五入で表示)


こうした数字を知ることで、相対的に良心的な運営がなされているのではないか、と感じるのが「都道府県民共済」です。たとえば、2016年度の決算を見ると、掛け捨ての商品だけを扱い、掛け金収入はB社の半分以下でありながら、事業費率は12%弱でC社より低いからです。

また、剰余金の一部が払い戻しされる「割戻金」と、入院給付金などの共済金支払い総額の合計を掛け金収入で割った「還元率」は83.5%です。

保険会社で商品設計に関わる複数の専門家によると、売れ筋の「医療保険」で保険料が給付金として加入者に還元される割合は70%くらいだそうです。つまり、収入面では中堅生保レベルの都道府県民共済の商品が、掛け金の還元率では保険商品を大きく上回っていると見られるのです。
保険料(掛け金)収入と事業費率の遷移

保険料(掛け金)収入と事業費率の遷移(※単位未満を四捨五入で表示)


しかも、時系列で調べると「都道府県民共済」の場合、掛け金収入の増加とともに事業費率が下がっている事実を確認できます。

保険商品の保険料に含まれる経費の割合や、保険料の還元率が不透明なのは、情報開示に関して健全なプレッシャーをかける消費者や媒体関係者が少ないからだと感じます。読者の皆さまにはぜひ関心を持ってほしいと思います。

※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。
 
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