東急が立ちあげたプロジェクト「The Royal Express」
観光列車The Royal Express。伊豆を元気にする願いを込めて伊豆急行の親会社東急が前面に立ってスタートさせた列車である。工夫を凝らしたインテリア、様々な車内イベント、豪華な食事などThe Royal Expressについて詳細にレポートしよう。観光列車The Royal Expressの走る伊東~伊豆急下田間(伊豆急の路線)は、東急の事実上の創業者である五島慶太が、晩年、田園都市線沿線の開発とともに力を入れた伊豆の観光開発の柱として突貫工事で1961年に完成させたものだ。その後、高度成長の波に乗って活況を呈したのだが、近年は観光客数の落ち込みもあって、今ひとつ元気がなくなっていた。
今回、伊豆観光の再活性化を狙って東急グループが打ち出したプロジェクトの目玉が観光列車The Royal Expressである。そして、車両のデザインを、JR九州の豪華列車「ななつ星in九州」や九州新幹線、各種観光列車で実績のある水戸岡鋭治氏に依頼。ついに完成し、運行が始まったのである。
The Royal Expressの各車両の様子を詳細にレポート!
列車は、全くの新車ではなく、伊豆急の観光列車として人気を博してきた「アルファ・リゾート21」(1993年製)を大改装し、前述の水戸岡鋭治氏が趣向を凝らした車内とした。まずは、各車内から見ておこう。最大の特色となる3号車マルチカー
The Royal Expressの最大の目玉となる車両は、3号車マルチカーである。内覧会の時はテーブルと椅子を並べて会議やセミナーができるようになっていたが、テーブルと椅子は着脱可能で、展覧会や結婚式、パーティ、ミニコンサートなど幅広いイベントが行えるようになっている。「ななつ星」などの豪華列車にもない車両で、水戸岡氏によると、やっと実現できたタイプの車両とのこと。電気鋳造の技術を使ったパネルを、世界で初めて天井に配した特別な車室になった。
4号車キッチンカーと、プラチナコース乗客専用の食堂車
4号車はキッチンカーで、車内で出される食事の調理室だ。緑の葉で覆われたようなイラストが描かれた壁が特徴的で、2つあるキッチンをフルに使ってサービスに務める。3号車同様、この車両に客室はない。
5号車と6号車は食堂車で、7号車と8号車に乗車するプラチナコースの乗客用だ。横浜から目的地までの行程中、同じ席で食事したり車窓を眺めたりするのではなく、車両を移動して気分転換を図れるようにとの配慮がある。シートベルト必須の観光バスではありえない、列車ならではの旅の楽しみ方を提案しているといえる。
食事は、東京・南麻布の創作料理店のオーナー山田チカラ氏と大分県出身で「ななつ星」のディナーも担当する河野美千代さんが監修するコース料理が提供される。食事のみならずドリンクにも手を抜かない。飲料監修として、川島良彰氏(コーヒー)、松本浩毅氏(紅茶)、種本裕子さん(ワイン)が名前を連ねている。
音楽の生演奏がウリの車内
5号車、6号車ともにピアノが置かれ、生演奏を楽しみながら優雅なひとときが過ごせる。音楽はピアノにもならず、バイオリンとのデュオでのアンサンブルが奏でられることも。音楽を重視する姿勢は、The Royal Expressのテーマ曲を創作したバイオリニスト大迫淳英氏が音旅演出家として、旅のプロデュースに参画していることからも見て取れる。音楽に満ちた移動空間。The Royal Expressの特色のひとつであろう。
車窓よりも車内での過ごし方を重視
8号車の最後尾は、改装前の「アルファ・リゾート21」ではひな壇のような前面展望スペースであった。今回、The Royal Expressとして大改造するにあたって、展望室はばっさり廃止され、プラチナクラスの乗客が自由に利用できるライブラリーに生まれ変わった。デスクもあるので書斎として使うこともできる。
車窓からの展望がウリのはずの観光列車で敢えて展望スペースをなくしたのはなぜだろうか? 不思議な気もするけれど、伊豆急線沿線は、意外と海岸線に沿って走る区間は少ないので、車窓以外の楽しみを重視し、優雅な移動空間として、競合する観光列車「伊豆クレイル」や「リゾート21」との差別化を図ったとも取れる。
1号車・2号車のゴールドクラスの車内は?
後回しになってしまったが、伊豆急下田寄りの1号車、2号車はゴールドクラスの車両で、3号車以降のゴージャスで大人のムードあふれる雰囲気とは異なり、豪華というよりはカジュアルな空間となっている。1号車は、テーマが「親子で旅を楽しむ」。JR九州の観光列車「あそぼーい!」でおなじみの親子シート(小さな子供用シートを側に配置)が採用された。
子供図書室や木のプールが配置され、水戸岡ワールドの楽しさが堪能できる。小さな子供連れは乗車できないクルーズトレインが主流の中、例外的な車両で、子供好きの水戸岡さんらしい設計だ。
2号車は、ウォルナットを使用したシックな空間で、ファミリーや友人と気楽な旅ができる車両だ。海側を向いた2人掛けシートもあり、ある意味、観光列車らしい車内となっている。
The Royal Expressの運転区間は? 横浜駅には専用ラウンジあり
JRの横浜駅が起点で、JR東海道本線、熱海からのJR伊東線を経由し、伊東から伊豆急下田までは伊豆急行線を走る。東京駅ではなく横浜駅が起点なのは、東急東横線との乗換駅なので、東急線沿線からの集客を狙っているのであろう。横浜駅には、専用のラウンジを新設し、はじめから優雅な特別な旅を演出している。The Royal Expressの乗車プランは大きく2種類
大きく分けて、1泊2日のクルーズプランと片道の食事付き乗車プランがある。
クルーズプランは、下田・蓮台寺・河津エリアの高級旅館・ホテルに宿泊し、伊東エリアと下田エリア2ヶ所での特別観光がセットとなる。伊豆最古の神社である白濱神社での正式参拝や由緒ある建造物東海館の特別解説付き見学といった普通では参加できないプレミアム感のある行程が組まれている。なお、帰路の伊東から横浜までは、特急スーパービュー踊り子号に乗車するコースもある。
片道の食事付き乗車プランは、およそ3時間の行程中に山田チカラ氏あるいは河野美千代さん監修の昼食をいただくプランだ。
料金は、クルーズプランの場合、宿泊旅館・ホテル、参加人数によって異なる。
1名1室・・・19万~20万円
2名1室・・・13万5000円~15万円
3~4名1室・・・13万5000円~15万円
食事付き乗車プラン
プラチナクラス おとなのみ、1人35000円
ゴールドクラス おとな 1人 25000円、こども 1人 20000円
ゴールドクラス ファミリーシート
(大人1人+小学生未満のこども1人、合計で)40000円
けっして安くはないけれど、特別な旅や何かのお祝いの食事会などでの利用はいかがだろうか。ともあれ、伊豆への鉄道旅行の選択肢が増えたので、地域活性化の起爆剤となることを期待したい。
取材協力=伊豆急行、東急電鉄
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