中国の四大国有銀行は世界トップ3を占める
世界の銀行を総資産や貸出残高、預金残高でランキングすれば、中国の四大国有銀行は世界の1位~3位、もしくは4位までを独占する規模となります。ただ資産の中身や透明性には疑問符も付くという評価が一般的で、ブランドとしての評価は規模ほど高くありません。しかし2017年2月に発表された英金融専門誌「ザ・バンカー」の世界銀行ブランド評価ランキングで、初めて工商銀行が米ウェルズ・ファーゴを抜いて1位となりました。また、中国当局は反腐敗と国有企業改革へ向け、あえて国有大手企業の不正会計を公表するという異例の行動に出ており(従来は隠していた)、長期的には銀行においても透明性が高まり、ブランド力向上に繋がると考えます。
もしもそうなるとすれば、割安に放置されている中国四大国有銀行は投資のチャンスと言えるかもしれません。そこで今回は最大手の中国工商銀行(01398)を見てみたいと思います。
2016年の業績は利鞘縮小で僅かな増益に留まる
まず、2016年の業績を確認すると、一般企業の売上にあたる経常収益は4.0%減の6417億元、純利益は0.4%増の2782億元となっています。本業ともいうべき利息収入においては、12.6兆元を超える貸出金や4.8兆元を超える国債などの投資資産など、合計21.8兆元の資金を運用し、4,718億元の純受取利息を得ました。しかし、前年比7.1%減の4718億元となっています。減収となっている理由は、運用資金額の増加による収入増はあったものの、それを上回る利鞘の縮小による収入減が響いたものです。純受取利息を運用資金の平均残高で割ったネット・インタレスト・マージン(NIM)は銀行の収益性を測る最も重要な指標ですが、2012~2014年に2.66%~2.57%で推移していたところから、15年に2.47%へ下がり、16年は2.16%にまで落ち込みました。2016年度のNIM大幅低下には増値税の扱いに関する変更も影響しましたが、それを除いても2年連続で大きく儲け率は低下しています。市場金利の低下が主因であり、資金の運用効率が下がっていることを意味します。ここ数年の株価低迷の原因でもあると考えられます。
もう一つの収入源である各種手数料収入は5.6%増の1698億元と順調に増加しています。その他経常収益には、銀行カード、プライベートバンキング、ウェルスマネジメント、決済、投資銀行業務などに伴う手数料収入があり、決済と投資銀行業務を除いて増収となりました。
ただ、両者を合わせた経常収益は4%の減収に終わっています。それでも人件費を筆頭とするその他経常費用を大きく抑制し、さらに当局が150%以上とする不良債権に対する貸倒引当金繰入額を規定以下に縮小したことによって、費用が抑えられて営業利益はほぼ横ばいとなりました。さらに関連会社からの持分利益の増加によって最終純利益は辛うじて増益を確保できました。確保できたというより、黒字になるよう逆算し、貸倒引当金などの費用を低く調整したというのが妥当でしょう。
ただ、金利水準が上昇すれば費用のコントロールに頼る形でなく、自然と増収増益を達成できるはずです。資金運用環境は非常に低いものとなっていますが、これ以上に低下するとは考えにくく、直近2四半期で大底を打った可能性もあると思います。
あとは金利環境の改善を待つのみか!?
長期で業績を俯瞰すれば、順調に増収増益を続けてきたのですが、2015年頃からネット・インタレスト・マージンの低迷によって経常収益、利益額とも伸び悩んできました。貸出金や運用資金は増加を続けており、あとは金利環境の改善を待つのみと思います。日本円にして400兆円近いバランスシートのうち、不良債権に分類されるのは貸出金総額の1.62%(不良債権比率)となります。他行と同じく、この比率は15年度の1.50%から増加しています。不良債権に対する引当率はすでに137%にまで低下しているため、今後当局が引当率を引き下げたとしても同行にとってはあまり利益増に繋がりません。
コアの自己資本比率は13%近くあり、主力行の中で最も高い数値となっています。ライバルの大手行と株価水準はほぼ変わりません。いずれもPER5倍台であり、PBRは0.6~0.7倍程度、配当利回りは5%台となっています。割安と見えますが、この状態が長らく常態化しています。
株価の状況はそれほど悪くありません。業績は伸びていませんが、これ以上に金利水準が下がることはないという様子からか、株価もこれ以上には下がらないという様子に見えます。明確に底打った兆しは数値として見られませんが、あとは市場金利の上昇を待つのみという状況に見えます。
中国の銀行株は世界的に見て大きく出遅れている
中国の銀行株は世界的に見て大きく出遅れています。日本の銀行株も同様ですが、背景にはネット・インタレスト・マージンの低下があります。ただ日本も昨年のマイナス金利導入を受けて一時市場金利が過去最低を記録したあと、これ以上に銀行収益環境が悪くなることなく、緩やかに改善してきているところです。中国も今後市場金利の底打ちを意識できる可能性あり、大底からの利鞘改善を意識した買いも今週見られます。先行して欧米の銀行でネット・インタレスト・マージンの改善が見られだしており、株価も上昇転換しています。これらの地域では中央銀行も緩和からインフレを意識した政策へと移行しつつあります。こうした銀行にとって良い環境への変化はまず米国が先行し、続いて欧州、最後は遅れて日本、中国にも伝播していくはずと思います。
工商銀行は世界最大の銀行であり、自己資本は同業の中でも厚いものとなっています。株価はどの指標で見ても割安なのですが、利鞘低迷が株価を割安に放置し続けてきました。一旦利鞘改善へと向かいだせば、割安な状態は長く続かないだろうと思います。
参考:中国株通信
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