統合失調症再発予防に大切な家族の見守り
再発リスクも伴う心の病。寛解後も、日常生活の様子をさりげなく見守ることは、家族にできる重要な役割です
通常は数カ月間、集中的に治療すれば症状は寛解しますが、良くなって退院されたあとでも、ある程度の期間が経ってから症状が再発してしまうことも少なくありません。
統合失調症の再発の要因は様々です。いつの間にか治療薬を飲まなくなっていることもかなり多いのが現実です。ここでは精神疾患治療の基礎知識として、もし家族に統合失調症の再発傾向が見られた時、周りのご家族が対処を誤らないよう、知っておいていただきたい基本的な内容を詳しく解説します。
統合失調症の既往歴があるなら疑わしい変化を軽視しない
統合失調症の再発の仕方が、患者さんによっても様々です。再発傾向や再発の初期症状のようなものは、一概にこうとは決め付けられません。しかし、一般的に本当に突然に再発することは少なく、本格的に再発するしばらく前から、何らかの変化や問題が現われ、段階的に症状がはっきりしてくることが多いです。症状が本格化するまでに時間がある段階でしっかり対処すれば、その後の経過もかなり違ってきます。現われている問題を再発前のレベルでそのまま押さえ込めば、入院が必要な事態も回避できることになります。また、もし仮に入院が必要な事態になっても、入院期間をかなり短縮できる可能性があります。
もし寛解して退院したばかりの頃と比べて、何かしらの変化がはっきりと現われてきた場合、本人だけでなく、ご家族もそれが再発の前触れなのではないかを疑い、注意したいところです。
例えば、急に元気がなくなり、自分の部屋に閉じこもりがちになった時なども、軽視しないことが大切です。そのような場合、本当に少し体調が悪いなど、別の理由があるかもしれません。しかし、猜疑心の強まりなどが、周りの人を避けたい気持ちにつながっている場合、再発の前段階の可能性もあります。また場合によっては統合失調症特有の陰性症状が現われている可能性もあります。
再発の近づきを見逃さないためにも、ご家族の方はいつもと違うことの理由を勝手に解釈して見過ごさず、本人に直接理由をはっきり尋ねるなどして気を配ることも、時に必要なのです。
心の病の再発を招きやすい服薬状況や飲酒状況もチェックを
急に怒りやすくなった、神経質になった、無表情になってきた、など再発の前触れは個々人で違いますが、再発を遠ざけるためにも、ご家族はいくつかの点について確認をするのがよいでしょう。まず第一に、治療薬をスケジュール通りに服薬しているか否かはとても重要です。本人に直接聞く必要もあるかもしれません。場合によっては治療薬の減り具合を見ることも必要です。統合失調症の初発後、1年以内に半数近くの人が治療薬を飲まなくなるという統計調査もあるほどですが、自己判断での服薬の中断は再発リスクを高めます。
本人は「もう治ったから大丈夫」と判断してしまうようなこともあるかもしれませんが、もし薬を飲んでいないことが分かったら、周りは直ちに対処すべきです。服薬を忘れないよう本人に促す、うっかり忘れることがないようスケジュールを大きく張るなど、何らかの工夫をしたいものです。また同時に、飲まなくなった理由も確認したいもの。もし何らかの副作用が現われたことで服薬をやめてしまったのであれば、それを解決するために受診し、主治医に相談することも大切です。
また、飲酒などの状況もチェックしておく必要があるでしょう。飲酒に限らず、薬物問題は再発のきっかけになることがしばしばあります。たとえば部屋にお酒のビンや缶が転がっていたり、口からアルコールの匂いがしたり、さらには酩酊時のような歩き方や話し方などが見られれば、軽視しないことが重要です。
対処を誤らないためには、基本的にはすぐ治療にあたっている主治医にそのことを伝え、アドバイスを求めるのが良いと思います。
再発時に集中的な治療が必要になる可能性も
統合失調症の再発の前触れにもしはっきり気付いた時は、それまでの通院スケジュールが仮に2週に1回で、次の受診日まで1週間以上あっても、病院に連絡を入れ、できれば翌日には受診されることが望ましいです。もし一時的な幻覚体験などが現われていたら、その日のうちに緊急受診することが望ましいかもしれません。もし実際に再発してしまった場合、症状のタイプやレベルによっては、自傷などの深刻な事態が起き得る可能性も考慮する必要があるかもしれません。こうした緊急事態は頻度としては少ないですが、万一の場合に備え、緊急時の連絡先や救急車を呼ぶなどの対処をあらかじめはっきり考えておくことも、不測の事態を防ぐ上で大切です。
再発の前段階は、実際にその変化や問題が再発につながる前兆といえるような問題なのか否かは、治療する側が医師の目で実際に患者さんを診て見極めていくことになります。診察の際には、服薬状況や飲酒問題などの有無、さらには生活環境のストレスなど、何がその変化や問題に影響したのか、ご家族など周りの方からの話も大変有用です。
例えばですが、猜疑心が強まっているような場合、通常は抗精神病薬で治療にあたります。その問題に対処していく際、まずその時点で患者さんの血液中の治療薬がどの程度か、服薬状況によっては、しっかりとレベルを確認する必要も出てくることがあるためです。
もし今にも再発しそうな状況だと判断した場合、症状をしっかり抑えこむ必要があります。治療薬のレベルも一時的にかなり増量しなければならないこともあります。より強力な治療薬に、あるいは副作用などを考慮した上で、治療薬を変更して治療にあたる可能性もあります。
まわりは問題が解決するまで患者さんをしっかり見守りたい、でも…
繰り返しになりますが、患者さん、そしてご家族は、統合失調症の再発の前段階のような問題が現われた時は、それが完全に解決するまで油断しないことが大切です。問題が解決するまでに必要な期間は個人差があります。1~2週間で元の状態に戻ることもありますし、数週間以上かかることもあります。その間、1歩前進し2歩後退するような時期もあるので、治療する側の判断を待たずに、もう良くなったと患者さんや周りが判断するのはとても危険です。
また、この「もう良くなった気がする」という油断は、治療薬の飲み忘れや、意図的な服薬の中止、場合によっては外来受診の日に普通の用事を優先させてしまう……といったことにつながる可能性もあります。その結果、症状がまた戻ってしまう可能性は決して少なくありません。ご家族の方にも、当人が完全に元の状態に戻るまで、しっかり見守っていただきたいものです。そしてその際は当人に誤解を与えないよう、しっかり配慮することも重要です。
例えばですが、何か腫れ物にでも触れるような接し方をしたり、家族全員に自分の行動を逐次監視されているといった誤解を与えてしまったりすると、当人にとって大変なストレスになる可能性もあります。元のレベルに順調に戻るためには、不要なストレスもまたできるだけ和らげたいものです。ご家族や周りはできるだけ普段通りにふるまいつつ、さりげなく当人をしっかり見守っていただくのがよいかと思います。
以上、今回は統合失調症の再発をテーマに解説しました。ここまで述べてきた通り、ご家族を始めとする周りの方には、当人の回復の経過に大きな役割を果たす力があることも、精神疾患に対する重要な基礎知識だとしてぜひ覚えていただければと思います。