防災/防災関連情報

熊本地震から一年、震災に学ぶべき教訓とは何か?

2016年4月、熊本で発生した地震は記録上初めて、震度7という揺れが二度に渡って同じ場所で発生するという稀に見る地震災害でした。現地を視察し、一年を経て、どんなことが分かったのか。そしてこの地震災害において、今後起こりうる地震災害に対して、どんな教訓があったのか、それを検証してみたいと思います。

和田 隆昌

執筆者:和田 隆昌

防災ガイド

震度7が二度襲った熊本地震

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熊本地震、益城町の被害(2016年) 撮影:和田隆昌

熊本県は地震災害の経験が少なく、過去100年に渡り、最大震度は5強程度であり、大きな被害記録が無く、人的被害が発生したのは1889年にまで遡ります。

そのためか熊本市内にはまだ「非耐震建築」と呼ばれる、現行制度に比べて耐震性の低い建築基準で建設された建物が多数存在していたため、2016年4月14日以降に相次いで発生した熊本地震における人的被害はそれらの全壊した家屋の内部で発生しました。

また国のまとめた地震発生予測においても、過去30年間で0.9%以下だったということもあり、自治体の地震対策の遅れ、地域住民の災害への意識の低さが被害を拡大させたのではないか、ということも指摘されています。

災害の記憶はあっという間に忘れさられていきます。日本列島においては「自分のところだけは安全」という場所はありません。どんな場所でも「震度7」の地震は発生しうるのはもはや常識です。すべての国民は自分や家族のために、その日に備えておかなければならないのです。


なぜ人的被害が数多く発生したのか

海溝型という海の中で発生する津波を伴った地震を除き、陸地内の断層で発生する地震被害による死者の多くは、家屋が倒壊することによって発生します。

熊本地震においては14日から16日にかけて震度6弱~震度7の地震が合計7度、特に16日の震度7の「本震」とされる地震によるダメージが大きく影響を与えられてしまったと思われます。前述のように人的被害の多くは「非耐震」の古い木造家屋を中心に発生してはいますが、実は全壊・半壊した4万2000棟に及ぶ家屋の中には、2000年以降に建築された「新耐震基準」によって建築された建物も数件含まれています。

現地を視察すれば「非耐震」の建物と「耐震」の建物の被害の程度の差は明らかであり、地震被害の対策の主眼は家屋の耐震性確保であることは変わりませんが、震度7という揺れが複数回発生すれば、たとえ「新耐震基準」で建てられた建物であっても、場合によっては無事では済まされない、ということが熊本地震では証明されてしまいました。

また被害の大きかった地域では、火山性の堆積物によって構成された弱い地盤が広がっており、さらに14日の地震発生後、倒壊を免れた家屋に戻ってしまったために、家屋が全壊し被害に遭った、というケースが続出してしまったのです。実際に家屋内での人的被害の多くはこの16日の「震度7」発生時に起きています。
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熊本地震、避難所の混乱状況(3日目)。撮影:和田隆昌

これまでの地震発生の常識では大きな揺れは一度きりで、その後は小さな揺れにすぐに収束していく、というものでした。それがこの地震により覆ってしまいました。この地震以降、気象庁の地震発生後の会見内容も変わってきています。「大きな地震の揺れは連続することもある」ということを頭に入れて、避難行動などの安全確保は一定期間続けなくてはいけない、ということも忘れてはいけません。


震災関連死が直接死の3倍発生

内閣府災害対策本部の29年3月発表資料によれば熊本地震の死者合計は211名。そのうち直接死とされるのは50名であり、それ以外の震災関連死と呼ばれる方が3倍の150名を超えています。これは災害による負傷の悪化、または避難生活等における身体的負担による死者であり、熊本地震との関連が自治体により認められ、災害弔慰金が支払われたものが数えられています。ゆえに大規模地震災害は、直接的な被害に遭わなかったとしても、その後の慣れない避難生活においても十分に健康に注意しておかないとならない、という教訓を忘れてはなりません。

実際に熊本県益城町においては、町役場そのものが倒壊の危機に陥ってしまった、ということもあって、避難所スペースが不足し、人があふれ、悲惨な状況でした。

多くの住民が自家用車での車中避難を選択し、避難所周辺は数千台に及ぶ車の中で避難生活を続けている住民がいたのも印象的でした。空港や道路に被害が及んだことによって、流通は機能不全を起こし、豊かな日本国内であるにも関わらず、物資の到着は大幅に遅れ、3日を過ぎても、全く食料や生活必需品が行きわたらない避難所が多数あったと記録されています。
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熊本地震、避難所の配給状況3日目。撮影:和田隆昌

大災害においては災害直後から、長い期間の「避難生活」が始まることがあります。より安全性の高い家屋に住むことが最優先ではありますが、家屋に損傷がない場合「自宅で避難生活」を送れるような十分な備蓄をしておくことも忘れてはいけません

熊本では避難所で配給が始まる前から、数百人の住民が長蛇の列を作る様子が多く見受けられました。住民の多くは「こんな災害があるとは思わなかった」ために備蓄などをする習慣は無かったと聞きました。全く備蓄のない状況では、こういった大災害時に家族の健康を確保するのは非常に困難になります。避難所では体力の無い高齢者や幼児から感染症が蔓延し、次々と病院へ搬送されていきました。「自分の身は自分で守る」ことが出来ないと災害関連死のリスクがあるのです。


今後発生が危惧される直下型地震、南海トラフ地震

現在、日本列島には二つの大型地震の発生が危惧されています。ひとつは首都圏を中心に発生するといわれる首都直下型地震、もう一つは西日本の沿岸地域を中心に被害が広がると言われる南海トラフ地震。

もし発生した場合、それぞれ被害状況は全く異なることになると思われますが、大事なのは自分の住む家屋、生活する地域にどのような地理的な地震リスクがあるかを今一度認識すること

海や川に近ければ、津波や洪水などの二次的な災害に襲われる可能性があります。山に近ければ熊本地震などで多く発生した土砂災害の可能性も。さらに地域に木造家屋が数多くあれば延焼火災の被害に遭う可能性もあります。

自分の持つ災害リスクを十分に理解して、家屋の耐震化、不燃化だけではなく、家族の避難計画や備蓄など、出来る限りの対処をしておくことが求められます。備蓄は水や食料だけではなく、生活必需品や医薬品なども必要です。

自分や家族の生命を守るために準備している人だけが、今後必ず発生する災害被害を逃れられるのです。
 

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