ミーシャ・ジーのInstagramから
先週末の冬季アジア大会(札幌)でスタンディングオベーションで演技をたたえられたミーシャ・ジー(ウズベキスタン)。彼は、2月半ば、Instagramで引退について考えていることを示唆しました。
「この1か月は、身体の問題、特に左足首の怪我でなかなか大変だったんだ。数日前に足首の関節に痛み止めの注射をしたことで、今季最後までは持つかもしれない。(ジャンプが高難度化していく男子シングル界でやっていくために)長い間難しいことを追いかけてきたけれど、そのために自分のよさみたいなものも失ってしまったりしたことある。だから、今季の残りの数試合がもしかしたら現役選手として最後になるかもしれない」、そんな内容でした。
五輪をひとつの軸として選手時代のキャリアを考えることが多いフィギュアスケートでは、五輪出場が視野に入る選手たちは、五輪シーズンを終えたところで引退することが多いものです。
25歳という年齢も考えあわせると、ミーシャは2017-18シーズンに引退するのかな、と漠然と思っていたところに示されたこのメッセージに「五輪まであと1年なのに、ここまでやってきたのに、なぜ?」という思いがわきあがってきました。
と同時に、2015年世界選手権では自己最高位の6位になったこと、試合で4回転を跳べるようになったこと、怪我、多種類多数回の4回転を跳ぶ若い世代の台頭、海外の試合に行くたびに自らヴィザ申請に出向いていること、2015年にはヴィザの発給が間に合わずにグランプリシリーズのフランス大会を欠場せざるを得なかったことなど、いろいろなことが思い返されました。
そして、健康な身体や時間、資金、家族との時間、遊ぶ時間……といったものと引き換えにスケートを続ける日々なのだと、改めて意識させられました。
冬季アジア大会で
そんな状況でも彼はいつもの通りの笑顔で、可能な限り力を尽くして試合に臨んでいます。今シーズンのフリープログラムは、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の中の『こんぺいとうと王子のグラン・パ・ド・ドゥよりアダージョ』。ミーシャ自身が選曲し、振付けしたものです。ロマンティックで優美で夢の中にいるかのような曲ですが、どこかちょうどいい重みを持った、地に足の着いた感じを受けるプログラムです。
「引退も視野に入ったシーズンだから選んだというわけではなくて、『何年も使いたいな』と思っていた曲だったんです。数年前に使おうと思ったんだけど、そのときにはまだ自分のスキルがこの曲には追いついていなかったんだ。クラシックバレエの曲なので、すべてを高いレベルで見せるには、曲の理解とかアーティスティックな面とか、テクニックとかすべてにおいてスキルが必要。そういうものを上達させてやっと使えるようになったのが今シーズン。シンプルなものほど難しいんだよね」
選曲にもセンスを発揮するミーシャですが、この曲はスーパーフィットしていて、ミーシャ・ジーという選手を象徴するプログラムともいえると、私は感じています。
3月下旬に開幕する世界選手権は「全力で頑張ります、もしかしたら最後の試合になるかもしれないからね。それでも世界選手権での演技がうまくいかなかったとしたら、それにはそれだけの理由があった、ってことになるよね。神のみぞ知る、だけど」と、アジア大会後に話してくれました。
「世界選手権、無事に出場して演技できるように頑張るよ」と冗談のように言っていたミーシャですが、実際に今も常に足などに痛みがあり、世界選手権に無事出場すること自体、本当にそんなに簡単なことではないようです。
引退の気配を感じながら……
選手は皆、いつかは引退するもの。ですが、選手たちは、すべてを公表するわけではありません。ほとんど何も話す機会もないまま、引退する選手が大多数です。
今回はミーシャについてご紹介しましたが、アスリートにとっては夢の舞台である五輪シーズンを目前に引退するかもしれないということは、それだけの理由があるということでしょう。
私たちがうかがいしれない理由がたくさんあって、それらすべてを検討した結果引退や続行を決めるのだからこそ、選手の決断をまっすぐに受け止め、目の前の演技(もしかしたら最後になるかもしれない演技)をしっかりと見つめたい。
ミーシャはもちろん、そのほかのすべての選手に対しても、そう思います。