新聞投稿から巻き起こった「公共の場での授乳」に関する議論

たびたび議論となる公共の場での授乳

たびたび議論となる公共の場での授乳

2017年1月の新聞投稿欄に、23歳の大学院生である女性から「店内での授乳に、戸惑う」というタイトルの投稿があり、公共の場での授乳の是非を巡り議論が巻き起こりました。

ショッピングセンターの飲食店でアルバイトしている投稿者は、お店に入ってきて授乳するお母さんたちに対し以下のように感じたそうです。
  • ケープなどで隠しながら授乳する人も多いが、それでも目のやり場に困る
  • 私は出産や育児を経験したわけではない
  • 怒られるかもしれない。でも、授乳は授乳室でしてほしい
ほどなくSNSを中心に議論が巻き起こり、新聞やテレビでも取り上げられたり、インターネットニュースサイトの関連記事には4000件近いコメントが寄せられるなど、「公共の場での授乳」に対して、関心の高さがうかがえます。

筆者は、長年、出産後なかなか外に出られない母親の状況を変えたいと活動してきました(そのテーマは、まさに、「公共の場での授乳」です)。

そんな中、時折こうした議論が沸き起こる様子を、時には当事者として、時にはコメンテーターとして見てきました。そんな経験から、今回の議論を振り返り、それぞれの意見の背景を考えてみたいと思います。


「隠してるのにダメなの?」という母親からの悲鳴

授乳ケープで隠しても気になる人も居る

授乳ケープで隠しても気になる人も居る

多くの母親たちから聞こえてきたのは、「授乳ケープで胸を隠しているのだから非難されるとは思わなかった……」という声です。かつての議論では、胸を出しても当然の権利、という意見を述べる方もあったのですが、実際母親たちは、その点に配慮はしているわけですから、困惑するのも無理はありません。

近年、マタニティマークを付けた女性が暴力をふるわれるというニュースもありました。混雑した電車に少しでも安全に乗るためにマタニティマークをつけているのに、周りからは妊娠をアピールしていると取られてしまう。

授乳を隠すためにやむを得ずケープを使っているのに、逆にアピールをしているようにとらえてしまう人がいる。問題の根っこは似通っているように思えます。

マタニティマークも授乳ケープも、当事者である女性は、本当は目立ちたくないと思っている、という点も共通しています。その行為が、逆にアピールに見えてしまっているとすれば、皮肉なことです。
 





授乳は時と場所を選ばないと知ってほしい

公共の場での授乳

公共の場でも授乳しないといけない場合がある

母乳の専門家や経験者は「その場で授乳せざるを得ない状況もあるのだから仕方ない」というコメントもありました。

よく、「ミルクは3時間おきに飲ませる」と言われますが、母乳の場合、授乳の間隔は不定期。また、お腹が空いた以外の精神的な理由でも母乳をほしがることがあります。しかし、そうしたことは、なかなか専門家や経験者以外が知る機会はありません。

「授乳は授乳室でしてほしい」という投稿に対して「行っても混んでいて使えない」「遠いから大変」という反論もありました。ここには、母乳ならではの、計画的な行動がしづらい事情がベースにあるのです。

「授乳室をもっと増やすべき」という提言

子ども用授乳服を使って、おままごとで「レストラン授乳」中

子ども用授乳服を使って、おままごとで「レストラン授乳」中


「もっと授乳室を増やした方がいい」というコメントもありました。授乳室の存在に助けられるお母さんは多いですし、存在そのものが赤ちゃん歓迎というメッセージになりますから、お母さんの外出を後押ししていると思います。 

しかし、授乳室を増やせばすむかと言えば、赤ちゃんが母乳をほしがるたびに泣き出した赤ちゃんを授乳室まで連れて行くのは大変。また授乳している数十分、同行する家族や子どもを待たせるのもお互いストレスでしょう。具体的にイメージすると、簡単に授乳室があればいい、とはいかない理由がわかってきます。

「小さい子をレストランに連れて行くべきではない」という声も

こちらは、かつて子育てをした先輩ママからの厳しい意見。「私は子どもが小さい頃は遊びになんて出かけなかった。子どもが小さい頃くらい我慢はできないのか」といった論調です。

こうした「私の頃はこうだった」発言は、子育てに限らず、「私の時はもっと残業してた」「私の時は夏休みなんてなかった」と、仕事でも、部活でも、つい口にしがちですね。

上記の発言が出てしまうのは、その方の子育て時代、子連れで出かけるのが許されない状況だったからでしょう。しかし、こうした「母親失格」と言わんばかりの声は、せっかく勇気を出して出かけてみた母親たちを委縮させてしまいます。

学校で教えるべきではという意見も

教科書に紹介された授乳服

教科書に紹介された授乳服


「知識を得るために、子育てや授乳についての知識を学校で教えたほうがいいのでは?」という提言もありました。

確かに、教育は大切です。筆者は授乳用の服を作っていますが、現在、高校の家庭科の教科書に載せていただいています。授乳の写真を高校生が目にすることで、外での授乳に対する抵抗感を自然になくす一歩になるのでは、と期待しています。

しかし、実際には、残念ながら教科書に載せることや、座学で教えることだけでは限界があります。実際に赤ちゃんに触れ合う機会を折に触れ作ること。社会の中に、身近に赤ちゃんの姿を見ること。それが本当の教育ではないでしょうか。そのためには、少しでも赤ちゃんがお母さんと外に出てほしいと、個人的には考えています。

セクハラコメントや、「危ないのでは」との意見

「美人なら授乳歓迎」「隠してるとかえって想像してしまう」といった、セクハラまがいのコメントもありました。今の日本では、胸はセクシャルなアイコンになっていますから、こんな風に感じてしまう傾向があるのは否めません。

先日防災の専門家のお話を聞く機会がありハッとさせられたことがあります。避難所ではピンクの服を着ない方がいい、という話です。通常の状況ではない被災地では、ピンク=女性らしい服装をすることで性被害の危険が高まるのだそうです。

時と場所によっては、授乳アピールと見えてしまうことは、この「ピンクの服」と同じように作用する危険もあるのかもしれません。

投稿主と同じく、「それでも目のやり場に困る」と思っている人たち

各種メディアで取り上げられた社会での授乳問題

各種メディアで取り上げられた社会での授乳問題


実は10年ほど前にも、同様の議論にコメントをしたことがあります。その際も、レストランでの授乳に違和感があったと問題定義をしたのは若い女性でした。

そもそも、今の社会では、胸は性的なものとして捉えられる場面がほとんどです。逆に、母乳を飲んでいる様子を家庭内や町中で見てきた人は少数派です。この状況で、違和感を持つなという方が、むしろ無理があるかもしれません。

今回のインターネット上のコメントの中には、そうした若い女性たちへの非難も数多くありました。しかし、責めるべきは、彼女たちではなく、授乳や子育てを社会から締め出してしまった今の社会ではないかと思います。

アンケートで「公共の場での授乳OK」という意見の人は何%いたのでしょうか?