そもそもApple Payとは?
アップルは9月7日(現地時間)、iPhoneの新機種「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」と、Apple Watchの新機種「Apple Watch Series 2」などの新製品を発表しました。そしてこれら新機種に共通しているのが、「FeliCa」を採用し、日本で「Apple Pay」が利用できるようになったということです。そもそもApple Payとは一体何なのかというと、iPhoneやApple Watchを用いた、非接触型の決済サービスです。日本の事例で言うならば、携帯電話やスマートフォンで決済ができる「おサイフケータイ」に近いサービスといえば分かりやすいでしょうか。
iPhone 6以降のiPhoneや、Apple Watchには近距離無線通信方式の「NFC」に対応したチップが搭載されています。Apple Payに対応したお店にもNFC対応のリーダーが設置されているので、商品を購入する際にそのリーダーにiPhoneをかざし、Touch IDで生体認証することにより、あらかじめ登録しておいたクレジットカードなどを通じて決済ができる訳です。
また、Apple WatchにもNFCが搭載されており、Apple Payに対応しています。それゆえApple Watchを装着していれば、iPhoneを取り出す必要なく、Apple Payによる決済をすることが可能です。
Apple PayはiPhone 6が発売された2014年に、米国でサービスを開始していますが、それ以降もイギリスやオーストラリア、中国などいくつかの国でサービスが開始されており、世界的に利用できる国や地域を拡大してきています。
なぜ新iPhone/Apple WatchはFeliCaに対応したのか
そして今回のiPhone 7/7 Plus、そしてApple Watch Series 2の発表に合わせて、Apple Payが日本でも、10月より正式にサービスを開始することが発表されました。そこで大きなポイントとなるのが、FeliCaへの対応です。FeliCaはJR東日本の「Suica」や楽天の「楽天Edy」、イオンの「WAON」などといった電子マネーサービスで幅広く利用されている、近距離無線通信方式の1つです。そしてFeliCaは、実は「Type-F」として、NFCの通信方式の1つとしても定義されているものなのです。
しかしながら日本以外の多くの国において、交通・決済系カードにはNFCの他の通信方式、具体的には「Type-A」「Type-B」という方式が用いられています。それゆえこれまで、スマートフォンなどに搭載されているNFCはType A/Bのみを採用しており、FeliCaは日本向けのおサイフケータイ対応機種にしか搭載されていませんでした。
ではなぜ、日本ではFeliCaが採用されてきたのかというと、それは通信速度の速さにあります。特に日本の首都圏では、世界的に見ても電車を乗り降りする人が非常に多いため、非接触通信する際に速度が少しでも遅いと、それが積み重なることで自然渋滞を巻き起こし、改札で大きな混雑を招いてしまう可能性が高いのです。
中でもこの速度に強いこだわりを見せるのが、首都圏を中心にSuicaを展開しているJR東日本。そのJR東日本が、NFCの標準化団体であるNFC Forumや、携帯電話事業者の業界団体であるGSMAなどに積極的に働きかけたことにより、来年以降、公共交通系サービスに対応するスマートフォンは世界的にType-A/Bだけでなく、FeliCaも搭載することとなったのです。
そうした流れを受け、今回アップルは新iPhoneの発売に合わせてFeliCaを採用し、日本でもApple Payを展開するに至ったと見られています。もっとも、今回FeliCaが搭載されるiPhone 7/7 PlusやApple Watch Series 2は、あくまで日本で発売されるモデルのみ。他の国で発売されるモデルは引き続きType-A/Bのみを搭載したものとなることから、外国人がiPhoneで日本の電車の改札を通ることができる訳ではありません。
Apple Payでは「Suica」が利用できる
では、FeliCaに対応した新機種を使って、Apple Payでは何ができるのかというと、1つには「Suica」が利用できるようになります。具体的には、SuicaのカードをiPhone 7/7 PlusやApple Watch Series 2にかざすことで、そのSuicaの内容を端末内に登録。後はiPhoneやApple Watchを改札にかざすなどして、利用できるようになります。なおApple Payでは通常Touch IDによる生体認証が必要ですが、Suicaの利用時は不要となっています。またSuicaカードを持っていない人であっても、JR東日本が今後提供するアプリを利用することで、iPhoneの中でSuicaを発行し、利用可能となるようです。料金のチャージは、あらかじめ登録したクレジットカード(後述)から可能で、定期券の購入などもできるようです。
ここで注意しなければならないのは、利用できるサービスはあくまでSuicaであり、Suica以外の交通系電子マネーサービスは利用できないことです。iPhoneに登録したSuicaを用いて、JR東日本以外の交通機関、例えばJR東海やJR西日本の電車に乗ることは可能ですが、Suica以外の交通系電子マネーカードをiPhoneに登録することはできません。
例えば関東の私鉄で提供されている「PASMO」のカードをiPhoneにかざしても登録できないことから、通勤に私鉄のみを用いている人などが定期券代わりに利用することは難しいといえるでしょう。
また、利用できるのはあくまでSuicaであり、おサイフケータイ対応機種で利用可能な「モバイルSuica」ではありません。それゆえおサイフケータイ対応のAndroidスマートフォンから新しいiPhoneに乗り換えた場合、同じ機能が利用できるとは限らない点にも注意が必要です。
「QUICPay」「iD」を用いたクレジット決済も可能に
そしてもう1つ、FeliCa対応のApple Payで利用できるのは、後払い方式の電子マネー決済基盤である「QUICPay」と「iD」を用いた、クレジットカードや、プリペイドカードによる決済です。あらかじめ対応するクレジットカードを登録しておくと、QUICPayかiDのうちどちらかに紐付けがなされ、QUICPayやiDの加盟店でiPhoneをかざすことで決済ができるようになるのです。ちなみにこちらの決済に関しては、Suicaとは異なりTouch IDによる生体認証が必要となります。また登録したクレジットカードは店舗での決済だけでなく、先に触れたSuicaのチャージや、オンラインでの決済にも利用可能です。対応するサービスとして、「ギフティ」や「じゃらん」、「出前館」などの名前が挙げられています。
ちなみにApple PayのWebサイトによると、サービス開始当初に対応するクレジットカードは以下となっています。
- 国際ブランド:MasterCard、JCB、American Express
- クレジットカード:イオンフィナンシャルサービス(イオンカード)、KDDI(au WALLETカード)、オリエントコーポレーション(オリコカード)、クレディセゾン(セゾンカード・UCカード)、ソフトバンク(ソフトバンクカード)、トヨタファイナンス(ティーエスキュービックカード)、NTTドコモ(dカード)、ビューカード、三井住友カード、三菱UFJニコス(MUFGカード)
これらを利用する時の注意点の1つは、クレジットカードによってQUICPayとiD、それぞれ利用する基盤が異なってくることです。例えばNTTドコモの「dカード」や、ソフトバンクの「ソフトバンクカード」はiDの基盤を用いますが、auの「au WALLETカード」はQUICPayの基盤が用いられます。どちらの基盤を用いるかはクレジットカードによって異なり選択することはできませんし、双方の基盤に対応していないクレジットカードはそもそも登録ができません。
そしてもう1つ、注意しなければならないのは、現時点でVisaのカードには利用制限があることです。QUICPayやiDの基盤に対応するVisaのカード(三井住友VISAカードなど)は、登録して店舗の決済に利用することは可能ですが、Suicaのチャージやオンライン決済に利用することはできません。
そうしたことからApple Payを利用する際は、あらかじめ自分の持つカードがどこまで利用できるのか、各クレジットカード会社に問い合わせておくことをお勧めします。
なお、Apple PayはあくまでApple Payであり、おサイフケータイではありません。それゆえ現在のところ、Suica以外の電子マネー(楽天Edy、WAON、nanaco等)には対応していませんし、決済以外の用途(社員証など)に用いることもできないことには、特におサイフケータイ対応端末から乗り換える場合は注意する必要があるでしょう。
【関連サイト】
Apple Pay - Apple(日本)