江戸時代から続く人の営みと自然が共存する貴重な鳥たちの楽園:片野鴨池
水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的で1971年にイランのラムサールで採択された「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、通称ラムサール条約。日本のラムサール条約登録湿地は50ヶ所(2015年5月現在)あり、片野鴨池は1993年に登録されました。総面積約10haと小さいながらも鴨池という名前の通り、昔から日本有数のガンやカモの渡りの中継地、越冬地として知られ、特にマガン、ヒシクイに関しては西日本有数。トモエガモに至っては全国で越冬する約3分の1が鴨池に飛来します。
毎年11月~3月にかけて数千羽もの水鳥が訪れ、絶好のバードウォッチングスポットとなっていますが、残念ながら冬季は池への立ち入りは禁止。何故か。実は鴨池は手つかずの自然のまま残ってきたわけではなく、人の営みと密接に関わりながら続いてきた、まさに人と自然との共生の結晶とも言える湿地なのです。
その1つが夕方餌を求めて鴨池から近くの水田へと移動する際、周辺の丘陵地を飛び越える鴨を坂網と呼ばれるY字形の網を数メートル~10メートル近くまで投げ上げて捕らえる、江戸時代に始まった石川県民俗文化財にも指定されている伝統猟法の坂網猟。
水鳥の保護区で猟なんて不思議に思うかもしれませんが、坂網猟の猟期は毎年11月15日~2月15日の3ヶ月間、年間捕獲数は200羽前後で生態系への影響をできる限り抑えた、ラムサール条約の理念「ワイズユース(賢明な利用)」にも合致する持続可能な猟法なのです。
そのため坂網猟師たちは猟期には池の畔にある番小屋から部外者がみだりに鴨池に立ち入らないよう監視したり、猟期以外は湿地管理などの環境保全に努めており、裏を返せばそうした努力がないとあっという間に水鳥の楽園は消滅してしまいます。
池への立ち入りは禁止ですが、池の畔に建つ加賀市鴨池観察館には池に面した窓際に望遠鏡が設置されていて水鳥たちの生態をつぶさに観察できますし、ガンの飛び立ちやねぐら入りなど自然観察イベントも催されているので、鳥好きは必訪です!
■加賀市鴨池観察館
住所:〒922-0564 加賀市片野町子2-1
TEL:0761-72-2200
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:無休(臨時休館日あり)
入館料:310円
市内に2軒だけ!稀少な天然鴨の美味しさを丸ごと味わい尽くす:ばん亭&山ぎし
前述の坂網猟で捕った貴重な坂網鴨を食べられるのが、かつて城下町として栄えた加賀市の大聖寺エリアにあるばん亭と山ぎし。年間200羽前後しか捕れないため、自ずと食べられる店も限られ、加賀市でもたった2軒だけ。鴨肉と言えば、クセがあるので苦手な人もいるかもしれませんが、坂網鴨は違います。まず完全に天然の鴨なので肉と脂のバランスが良く、独特の旨味があります。
また鴨が餌を食べる直前に網を使って捕獲するため、内臓に何も残っておらず臭みがない上、鴨を傷つけないので肉に血が回らず肉の味を損ないません。
そのため坂網鴨は肉質の肌理が細かく弾力性に富み、臭みもなく滋味深い、まさに究極の天然鴨。野生ならではの珍しい鮮やかなワイン色の肉も食欲をそそり、1度でも食べたらあまりの美味しさに虜になること間違いなしです。
ばん亭、山ぎし共に坂網鴨料理は毎年11月15日~2月末までの期間限定(予約必須)なので、興味がある人はこの時期を逃さずに。
また加賀市では毎年猟期に合わせて坂網鴨食談会と銘打ち、オリジナルの坂網鴨コース料理が堪能できるほか、普段は目にすることができない坂網猟の見学など加賀の貴重な冬の味覚と文化を体感できるイベントを開催していて、こちらもおすすめです。
■ばん亭
住所:〒922-0816 加賀市大聖寺東町4-11
TEL:0761-73-0141
営業時間:11:30~13:30(L.O.)、17:00~21:30(L.O.)
定休日:水曜日
■山ぎし
住所:〒922-0816 加賀市大聖寺東町2-24
TEL:0120-311770
営業時間:11:00~14:00、17:00~21:30(L.O.)
定休日:月曜日(祝日の場合は不定休)
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