デュオフォールド「ビッグレッド」の伝説

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パーカー「デュオフォールド クラシック ビッグレッドCT」インターナショナル版、86400円。他に、もう少し大きめのセンチネル版もある。

パーカーの「デュオフォールド」と言えば、1921年の発売以来、パーカーの最高級モデルのシリーズとして現在も続いています。発売当時、万年筆といえば黒い軸が当たり前だったところに、オレンジ色の軸を投入して話題を呼んだことでも有名です。これ以降、シェーファーやウォーターマンがセルロイド製の鮮やかな色の万年筆を発表するきっかけになったモデルでもあります。

また、インクの吸入量も多く、さらには飛行機から投げ落として丈夫さをアピールするといった宣伝を行うなど、機能面でも優れている万年筆として大人気となりました。コナン・ドイルやトーマス・エジソン、アインシュタインらが愛用していたり、マッカーサーが日本の降伏文書の調印式に使ったりと、様々な伝説を纏った、通称「ビッグレッド」と呼ばれるオレンジの軸は、今でも万年筆のアイコンの一つになっています。

2015年、新しいビッグレッドの登場

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解説書、コンバーター、インクカートリッジなどが入った、とてもキレイなパッケージに入っているので、ギフトで貰うととても嬉しいと思う。

2015年12月に、パーカー社はブランドそのものを一新、デュオフォールドとソネットというパーカーの万年筆を代表する2つのコレクションに絞ってリニューアルしました。その中には、当然のように、ビッグレッドも含まれています。「デュオフォールド クラシック ビッグレッドCT」と名付けられた新しいビッグレッドは、かなりオリジナルに近い濃いオレンジ色の樹脂軸に、シルバーのクリップやリング、18金の大きなペン先を持った万年筆です。インクの吸入方式は、付属のコンバーターによるインクの吸入か、カートリッジです。

この新しいビッグレッドを手に入れたので、ここでご紹介しようと思うのですが、この万年筆、ガイド納富はあまりにも気に入ってしまって、あまり冷静に紹介することが出来そうにありません。最近、万年筆はカタログスペックではなく、実際に書いていて、書き続けたいと思うか、書きたいと思うかが選ぶ際の重要なポイントではないかと思っているガイド納富にとって、それこそ、とっても「合う」万年筆だったのだと思います。
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手彫りのようなムードのある「DUOFOLD」の刻印。

いわゆる伝説の万年筆とか、伝説のノートとかの、その商品にまつわる伝説や歴史は、実際の使い心地にはあまり関係しないと思っているガイド納富ですが、「持っていて嬉しい」→「使いたい」→「使うと書きやすい」→「また使いたくなる」→「持ち歩く」→「手にしているだけで嬉しい」というループは、確かにあるなあと思いました。要するに、ガイド納富はビッグレッドが好きだったんですね。軸に彫られた「DUOFOLD」の文字の、手彫りくさい不安定だけど丁寧な彫線を見ているだけでも、なんとなく満足感があるのです。サミュエル・フラー監督の映画「最前線物語(原題THE BIG RED ONE)」が好きだからとか、かつて、知人から借りたビッグレッドの1922年のモデルの使い心地が好きだったから、など、色々な要素が合わさっているのだと思います。自分が、ある「モノ」を好きだと思う背景を考えてみるのも面白いですね。

伝統のタフなペン先の筆記感はひたすら滑らか

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18金の大きなペン先には、伝統の刻印入り。あまりしならないが、書き味は固い印象がない。

この「ビッグレッド」は、昔からペン先のタフさでもお馴染で、固いペン先だと言われているのですが、この新しい「ビッグレッド」では、そこは少し変わっているように思います。いや、多分、ペン先は固いのです。少し筆圧をかけたところ、さほどしなりません。ただ、筆圧をかけずに書くと、滑るようにスイスイと文字が書けるのです。それは、ほとんどのちゃんとした万年筆がそうなのですが、少なくともガイド納富がこれまで使った万年筆の中でも、その滑らかさは突出しています。紙の上を滑るペン先の音がほとんど聞こえないくらいです。また、ペン先が紙に当たるタッチはとても柔らかなのです。これは、ペン先の固さではなく、インクフローの良さやペンポイントの形状、紙との相性もあるとは思うのですが、タッチの柔らかさがペン先の柔らかさだけから来るものではないということでもあると思うのです。少なくとも、カリカリする感じは全くありません。
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不思議な質感の樹脂は、いきなり手に馴染んだ。素材を知りたい。

余談ですが、万年筆のペン先の柔らかさ固さについて、少し考えてしまいました。ペン先がしなるほど筆圧を掛ける必要がない場合、ペン先の柔らかさは筆記に何の影響もないような気がするのです。むしろ、筆圧をほとんど掛けずに書いてもしなるほど柔らかいペン先は、書きにくいようにも思うのです。また、カリカリするのはペン先の固さよりも、描線の細さとか、紙との相性が問題ではないでしょうか。どうも、ガイド納富にはペン先の硬軟の意味がよく分からなくなってしまいました。ここは、今後も色々な万年筆に触れながら考えていこうと思います。

ガイド納富の「こだわりチェック」

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付属のコンバーターで、ボトルインクの利用も可能。

閑話休題。このビッグレッドの軸の素材は希少な樹脂ということなのですが、正体は不明です。見た感じはエナメルのような質感があって、触ると、手に吸い付くようなしっとりした感じがあります。日本でいうところの柿色、渋めのオレンジ色が、鮮やかとシックの中間で揺れる感じは、高級感もあるけれど、日用品のムードもあって、とっておきの一本ではなく、普段使いにしてこそ真価を発揮する雰囲気を持っています。発色も、派手過ぎず、しかしシックにもなり過ぎず、赤を主張しながらも落ち着いた柿色です。これが、何とも魅力的なのです。黒とのコントラストも良くて、それだけに、銀のパーツは果たして、この軸の色に最適なのか、とか考えてしまいます。かつてのビッグレッドのようにゴールドの細身のパーツの方がカッコ良かったような気もします。好みの問題ですが。
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最初のビッグレッドのクリップは矢羽根ではなかった。その後も少しづつデザインを変えて、今回のスマートな矢羽根クリップへ。

万年筆メーカーのほとんどがそうなのですが、かつての名作を復活させる時、オリジナルに近づけようという努力はあまりしないのですね。だから、ビッグレッドも、その登場の度に細部が変化しています。軸の色さえ毎回同じではありません。それは、当時の素材が入手できないとか、当時の素材では現在の製品として成り立たないとか、いくら何でもデザインが古くなっているとか、様々な事情があると思います。例えば、今回のビッグレッドの大きな変化は、インクが吸入式ではなくなり、コンバーターを使った両用式になったこと、矢羽根型のクリップのデザインと、キャップについたリングの太さとデザイン、金属パーツが銀色になっていること、といったあたりでしょうか。各パーツを吟味して手作業で組み立てられているといった部分は伝統をしっかりと保持しています。
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今回、ガイド納富はビッグレッドに、キングダムノート×セーラー万年筆のオリジナルインク「クルマエビ」を入れました。

この変化を、どう受け止めるかは個人の趣味ですが、ガイド納富は、その多少気に入らない細部も含めて、自分が使う万年筆として今回のビッグレッドが気に入っています。あまりに再現度が高くても、それは普段使いの筆記具としてはどうなのかという気もします。気に入らないというか、何故変えたんだろうと見るたびに思ってしまうリング部分は、「これはノスタルジックな万年筆ではなく、伝統を踏まえた新しい万年筆なのだ」と主張しているように思えて、それはそれで、変な懐古趣味に走らず、道具としてガシガシ書ける万年筆になっているなと思いました。だからこそ、この決して安価ではない万年筆を、普通に持ち歩いて、その伝説と歴史を指先に少し感じながらも、どこででも使っていけるのです。

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