多くのより分かり易いターゲットを狙って

フィアット500X

フィアットブランドとして初のスモールSUVとして登場した500X。FFのポップスター(286.2万円)とポップスタープラス(307.8万円 写真)、4WDのクロスプラス(334.8万円)をラインナップする


BMWミニがそうであったように、フィアットもまた、ブランドの骨格というべき“復活した500”では、古のオリジナルモデルより随分と大きくなってはいたものの、それでも現代レベルでの実用性の乏しさが、多くのポテンシャルカスタマーの購入障壁となっていた。

だからこそ、アイコニックな存在としてミニも500もマニアックな支持を受けているのだ、という考え方もあるけれども、量産メーカーが狙いはそこに留まらない。個性的なモデルによって引き上げられたブランドイメージを効果的に使って、もっと多くの人にストレスなく使ってもらえるモデルをいくつか用意し拡販し、ブランドの囲い込み運動を継続すること、にある。

つまり、実用性をある程度犠牲にしてでも、ユニークなデザインで印象に残るウルトラニッチなコアモデルを造っておき(BMWニューミニ初代や蘇ったフィアット500がそれに当たる)、それでブランド(ネーミング)イメージをしっかりと確立しておいてから、より求め易い合理的なモデルで儲ける、というビジネススキームだ。マニアが“でっかいミニ”や“でっかいチンク”の是非で盛り上がってくれればくれるほど、ブランドへの注目度は集まるというわけである。

ミニは、まず、クロスオーバーという“大きなミニ”を造り、そのあとでベースモデルも大きくして、ブランドのターゲット層をどんどん拡大させた。フィアット500(チンクェチェント)の場合はどうだろうか。本国には、実はすでに、500Lという“デカ”チンクが存在している。ファミリー用チンクという観点では、そちらだろう。チンク版のちょっとしたMPV仕立て。ロングホイールベースモデルまで存在する。

フィアット500X

ボディサイズは全長4250mm×全幅1795mm×全高1610mm(FFモデル)。ちなみに生産はジープレネゲードと同じ、イタリアのメルフィ工場となる


翻って、日本市場に導入されたのは、500Xである。どちらかというとミニバンやワゴンのような仕立てであった500Lに比べて、丸みを帯びたスタイリングがまだしも、500との関連性を強く印象づけるデザインだ。

こちらは、SUV仕立てである。ミニクロスオーバーが、SUVとワゴンの両方のイメージをもっていたのに対して、フィアットの狙いは、それをさらに2つに分け、それぞれのモデルでよりわかりやすいターゲットを狙ってと言っていいだろう。

フィアット500X

500にインスピレーションを得たクラシカルなデザインに。広い室内には便利な収納スペースを多数配した。FFモデルにはボディ同色インパネパネルを採用

フィアット500X

ラゲージ容量は350L、後席を収納すれば最大1000Lとなる


顔付きは似ているが“チンク”とは違うクルマ

フィアット500X

フロントマスクやボンネットのプレスラインなど、500のデザイン要素を踏襲。大きなホイールアーチやスキッドプレートなどでSUVらしさを高めている


それにしてもこの500Xは、相当に大きい。写真でみると、なるほどチンクっぽい顔立ちで可愛らしいクルマに見えているけれど、実物はもはやチンクのデカい版とも思えないほどに、でかい。初めて見たカピバラ、のようなものだ。

ミニクロスオーバーよりも大きいし、500Lよりもでかい。

顔付きやディテールデザインが似ているというだけで、ミニとミニクロスオーバーとの関係と同様に、まったく違うクルマだとまずは認識しておいてほしい。セグメントが違う。VWで言えば、ポロとゴルフの違いである。

フィアット500X

1.4Lターボを搭載。FFモデルは最高出力140ps/最大トルク230Nm、4WD モデルは170ps/250Nmとされた。JC08モード燃費は15km/lと13.1km/


日本仕様には、3グレードの用意がある。FFのポップスターとポップスタープラス、4WDのクロスプラス、だ。

ポップスターとポップスタープラスの違いは、レザーシートやリアカメラ、安全装備、タイヤサイズなど。

FF、4WDともにフィアットファンにはお馴染みの1.4Lマルチエアターボエンジンが積まれているが、FFには6速デュアルクラッチミッションが組み合わされているのに対して、4WDには姉妹モデルであるジープ・レネゲート由来のトルクオンデマンド電子制御4WD+9ATがおごられた。

そう、500Lが従来から存在するフィアットアウトグループのFFコンパクト車(プントなど)をベースに設計されていたのに対して、500Xは全く新しいモデルであり、レネゲートと基本設計を同じとする。ジープ・クライスラーとの合併後、この500X&レネゲードが(ジュリエッタ&チェロキーではなく)、実質的には初めての真性コラボモデルであると言っていい。プラットフォーム設計の主導権はフィアット側にあったようだ(当然だろう)。

フィアット500X

ヒップポイントは669mm(4WDモデルは697mm)。部位により密度を変化させた発泡材を用いたエルゴノミックシートを装着する

フィアット500X

6:4分割可倒式を採用するリアシート。ポッテプスタープラスとクロスプラスにはブラウンのレザーシートを標準採用、ポップスターはグレーのファブリックとなる


走りは極めて真っ当なヨーロピアン・ハッチバック

フィアット500X

ブレーキ支援システムをはじめ、レーンデパーチャーウォーニングやブラインドスポットモニターなどの安全装備を標準化(ポップスター以外)ヒルホールドシステムなども備えた


肝心の走り味はどうか。まずは、FFから試乗した。

これまた、チンクを感じさせない、極めて真っ当なヨーロピアン・ハッチバックである。着座位置が高いために、SUVっぽさもあるにはあるけれど、基本、FFハッチバック系の走りに徹する。カーデザインにおける流行のファッションとしてのSUVスタイルが、欧州でも根付いたということだろう。とにかく今、ヨーロッパ市場におけるコンパクトSUVスタイルの流行は、過熱する一方らしい。

乗り心地は、やや硬めでソリッドなテイスト。硬めが好きな人には、乗り心地よく思えるレベルに収まる。これは、フィアット500の味付けを受け継いでいるようにも思えた。全体的に、落ち着きがあるというよりも、元気よさが目立つライドフィールである。

フィアット500X

走行状況や路面状況に応じて走行特性を選択できるドライブムードでレクターを標準装備。日常に適したオート、パフォーマンス重視のスポーツ、悪路走行性を高めるトラクションという3モードが選べる


4WDはどうか。FFとはまるで違って、ややずしりと重たさのあるステアリングフィールである。下半身もどっしりとしている。最初はクルマの重さが影響しているのかな、とも思ったが、だんだんと気にならなくなり、むしろ、半時間くらいで思い通りに走らせている感が出てきたから、これは500Xの個性、ひいては“フィアット風味の味わい”ということだろう。

パワートレインに関しては、FFに関しては過不足なく、日常から高速遣いまでオールマイティにこなす。4WDもまた十分だけれども、追い越し時など、ここイッパツの加速が少々つらい。ただし、速度にのってからの安定感は素晴らしく、シャシーの仕立てのよさが伺えた。

フィアット500X

電動パワーステアリングに加え、ダイナミックステアリングトルク(DST)を採用。DSTはESCシステムに統合され、オーバー/アンダーステアを修正し操安性とハンドリング性能を高めてくれる

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