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羽生結弦選手の高得点の理由:フリー編

NHK杯で羽生結弦選手がショートプログラム、フリー、総合得点のすべてで史上最高得点を出しました。なぜそんな高い得点が出たのか、今回はフリーについてお伝えします。

執筆者:長谷川 仁美

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11月下旬のNHK杯で羽生結弦選手が、ショートプログラム、フリー、総合(ショートとフリーの合計)の3つすべてで史上最高得点を出した理由を、2回にわたってお伝えしています。今回は、フリーについてです。

【関連記事】
羽生選手の高得点の理由:ショートプログラム編

言葉にすると簡単すぎるのですが、フリーでは、「技術点が高かった」ということを強調したいです。その中にもいくつか要因がありますので、1つずつご紹介します。


技術点【1】
4回転を3つ入れ、すべての出来ばえが素晴らしかった

羽生選手は、8つまで跳べるジャンプのうちの3つも、4回転ジャンプを跳ぶ構成を組んでいます。さらに、そのうち1つは、プログラムの後半(2分15秒以降)に入れています。

プログラムの後半は体力的にもきつくなってくるので、すべてのジャンプの基礎点が1.1倍されます。そのため、後半で高難度ジャンプを決めることで、ジャンプの基礎点が上がることになります。

羽生選手のフリーの場合、NHK杯の後半で4回転トウループ+3回転トウループを跳びましたが、この基礎点は、前半に入れていると14.60点、後半だと16.06点になります。


技術点【2】
3つのコンビネーションジャンプすべてを後半に組みこんだ(しかも3つとも高難度)

後半のジャンプは基礎点が1.1倍されるので、単純に考えると、後半にたくさんのジャンプを跳ぶと基礎点が高くなります。ですが、8つのジャンプ(うちコンビネーションは3つまで可能)をすべて後半にすることは、所要時間の関係でほぼできないでしょう。体力的にも非常に厳しいものになります。

ですから、プログラムの全体にジャンプを散りばめて、プログラムが偏っていないものであり、かつ、ジャンプの基礎点を上げるには、後半に3つのコンビネーションすべてを入れることが考えられます。

以上は、あくまでも理想の話。実際はプログラムの後半には、スタミナも減ってきて疲れてくるので、コンビネーションを3つも入れるのは、少し心配な部分もあります。ですが羽生選手は、2012-13シーズンからこうした構成に取り組んでいます。

しかも、今シーズンは、コンビネーションにするジャンプに「4回転」と「トリプルアクセルを2つ」という、もともとの基礎点が非常に高いものを選んでいます。さらに、うち1つのコンビネーションは、トリプルアクセル+3回転サルコウ。セカンドジャンプを「サルコウ」にすることで「トウループ」よりも基礎点アップを狙っています(少し込み入った話になりますが、ルール上、フリーでは、同じ種類の3回転(4回転)は2度まで使っていいのですが、それは2種類まで、と決まっているため、3回転トウループの重複を避けるためにサルコウにしている面もあります)。

「4回転」と「トリプルアクセルを2つ」という、いずれももともとの基礎点がとても高いものに、さらに1.1倍されるので、基礎点がとても高くなりました。

もちろん単に基礎点の高いジャンプを入れればいいのではなく、それをきちんと成功させなければ思っていたような点数は得られません。


技術点【3】
GOEが高かった(エレメンツの出来ばえがよかった)

ショートプログラムと同じポイントになりましたが、フリーでは全部で17個のエレメンツ(ジャンプ、スピン、ステップ)があります。それらの基礎点を合計すると95.79点になります。

それが、羽生選手の演技後に加減された(羽生選手の場合はすべて加点になりました)GOEがついたのち、その得点はなんと118.87点になったのです。23.08点も加点された計算になります。

さらに、トリプルアクセル+2回転トウループの2つめは、両手を上げています(このGOEはすべてのジャッジが+3をつけるというものすごいことが起こっていた)。そして、このトリプルアクセル+2回転トウループには、9人のジャッジのうち8人がGOEで「+3」をつけるというなかなか見られないことが起こっています。(残り1人のジャッジは「+2」でした)それほどに素晴らしいジャンプだったということです。


プログラム構成点が、ショート以上に高かった

さらにこちらもショートプログラムと同じく、5つあるコンポーネンツの方でも高い点数を得ました。上限は(5つの内容についてそれぞれ10点満点の50点に係数として2をかけた)100点に対して、羽生選手は97.20点を得ています。ものすごい高得点だということがわかりますでしょうか。


なぜこんな演技ができたのか?

もちろんこのNHK杯に限らずどの大会でも、羽生選手は一生懸命演技していますし、他の選手たちも同じく常に力いっぱいスケートをしています。それなのに、今回のようなことはものすごく稀なこと。

それを羽生選手が成し遂げたのには、ここまで述べたようなスケートや技術などのことだけでなく、メンタル面、気持ちの動向も関係しているようです。

10月30日からのスケートカナダで、昨年1シーズンを休養していたパトリック・チャン選手に敗れたこと。ショートプログラムは大分評価されてきたので、まだまだ挑戦したい気持ちがあったこと……などなど、負けず嫌いの性格が刺激され、「血のにじむような努力をしてきた」と自ら公表するくらいのものすごい練習をしてNHK杯に臨みました。

心身ともにいい状態でNHK杯を迎え、そうしたすべてが奏功して、フリー216.07点、総合322.40点というものすごい点数に繋がったのです。

個人的な感想ですが、「フリー200点、総合300点」というのは、どこか遠い夢物語のように、ぼんやりと感じていました。そこにNHK杯で、いきなりそれ以上のものが提示され、一気に目が覚まされた思いがしましたし、これまでと見える世界が違ってきたように感じます。

スケートを見ていただけの私の意識まで変えてしまうほどの羽生選手のNHK杯の演技。男子シングル史の新しい扉を、大きく大きく開きました。

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