12月10日(日本時間11日)には、グランプリファイナルの男子ショートプログラムが始まり、羽生選手も出場します。
そこで、グランプリファイナル前に、NHK杯の羽生選手の演技は、実際に何がどうなって高得点が出たのかということについて、漠然と「すごかった!」と感じたところから一歩踏み込んだことをお伝えします。
まず今回の記事では、ショートプログラムについてです。
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技術点【1】 4回転ジャンプを2つ入れた
羽生選手は、ショートプログラムに『バラード第1番ト短調』という曲を使っていますが、この曲は、昨2014-15シーズンから2季連続で使っています。今シーズンのNHK杯の前までは、3つあるジャンプのうち4回転は1つでした。(ジャンプを跳ぶ順番は数回変わっています)。もちろん4回転が1つでも難易度の高いプログラムなのですが、今シーズンのNHK杯から羽生選手は2つにしました。
フィギュアスケートの得点では、難しいジャンプの方が点数(基礎点)が高く設定されているため、ミスなく滑れば4回転が1つより2つの方が得点が高くなります。
■NHK杯前まで:3回転アクセル、4回転トウループ、3回転ルッツ+3回転トウループ
■NHK杯:4回転サルコウ、4回転トウループ+3回転トウループ、3回転アクセル
ジャンプ構成が変わったので、ジャンプの点数(基礎点)が上がりました。
技術点【2】 GOEが高かった(エレメンツの出来ばえがよかった)
ショートプログラムでは、ジャンプ、スピン、ステップといったエレメンツ(技)を全部で7つ行います。その1つ1つを、ジャッジが「いい出来だった」「これは、ミスがあった」などと採点していくのですが、その採点は「GOE(Grade of Execution/直訳すると「達成の質」、つまり「エレメンツの出来ばえ」のこと)」と呼ばれて、-3~+3の7段階で評価されます。そうして出されたものが、「技術点」です。
もう少し細かくGOEについて説明すると、可もなく不可もなくできたら「0点」(0点は悪いものではありません)で、「よい」なら+1、「劣る」なら-1、ジャンプで転倒したら-3となります。
NHK杯のショートプログラムの羽生選手のプロトコル(採点の詳細がかかれた表)を見ると、GOEの7つすべてが「+(プラスとは表記していないけれど、マイナスではないのでプラスです)」の評価です。
少し難しいことになりますが、この羽生選手のショートの、7つのエレメンツの基礎点(エレメンツがもともと持っている得点)の合計(技術点)は、48.05点。すべてのエレメンツを可もなく不可もなくできたら48.05点になるというエレメンツを、もともと構成していました。
ところがこのときの羽生選手は実際には、技術点で59.44点を獲得しています。予定の48.05点よりも11.39点も高い。GOEだけで11.39点も上乗せしたということです。これは、かなり技術的に素晴らしいものを見せた、ということになります。
【1】でも述べたように、4回転を2つにしたことで、ジャンプの基礎点自体が上がっていることも、ここに関係しています。
プログラム構成点が、上限に近いほど高かった
フィギュアスケートは、大きく分けると2つの側面から演技をジャッジされます。1つは先ほど述べた「技術点」で、もう1つが、「プログラム構成点」です。スケート技術やエレメンツ間のつなぎの様子、曲の解釈などを見ています。ざっくり言うと、「芸術面を含む、エレメンツ(ジャンプ、スピン、ステップ)以外のすべて」を見た点数ということになります。ここでは、ジャッジはすべて10点満点で得点を出します。評価する内容は5項目あるので10×5の50点が上限になります。
そこで羽生選手は46.89点を出しています。これは、とてもとても高い点数です。得点は、ジャッジの平均値が取られるのですが、満点の10点を出したジャッジもいました。もちろんスケート技術が優れているだけでなく、2シーズン使っているからこそ、この『バラード第1番』を聴きこんで理解し、自分のものにしようとし続けてきたことが、この時点での実を結んだということです。
そうしたものたちががかみ合って、自身が持っていたこれまでの史上最高得点101.45点(ソチ五輪)を上回る106.33点という得点が出されたのです。
今回の解説では数字がたくさん出てきていますが、そこはあまり気にしないで、見出しのポイントだけなんとなくご理解いただければ十分です。
フリーについては、こちらの記事でご紹介します。