自己肯定感が低い女性たち
春画の中の女性たちは、みんな満たされて生きているように見える、とミユキさんはつぶやいた。「私、自己肯定ができなくてずっと苦しんでいるんです。気がつくとネガティブになってるし、仕事は完璧で当たり前、誰かに褒められるなんてこともめったにない。自分が存在していていいのかどうか、よく考えます」
実は最近、こういうアラフォー女性が増えているように思う。思春期の子が言うようなセリフが、大人の女性たちの口から出てくるのだ。厳しい言い方をすると、そんなことは10代のときにさんざん悩んで苦しんで、なんとか乗り越えてきたことではないのだろうか。
「私は10代のときに悩める環境になかったんです。親が厳しくて、ただただ、いい学校に入るために勉強させられてきた。今でも、あの苦しさが蘇ることがあって。結局、親が望む学校には入れなかった。そのときの親の嘆きが今も心に残っています。私は誰も喜ばせることができない人間なんだと思って……」
親を悲しませたのだから、自分が幸せになってはいけない、いや、自分は幸せにはなれない人間なのだという気持ちが、心の隅にあるのだという。だから、恋愛もセックスも手放しで楽しめない。「快楽」につながるいかなることも、彼女にとっては「罪悪感をともなうもの」らしい。
春画の中の女性たちは、生き生きとしている。好きな男とまぐわって、その表情からは、「うふふ」という笑い声が聞こえてきそうだ。
「羨ましいです。何も考えずに、ああやって男性とひとつになれたらいいですよね……」
今の時代、政治的、社会的、経済的な環境はもとより、人間関係も煩雑複雑、さらにシンプルに生きること、シンプルに考えることがむずかしい時代なのかもしれない。庶民は、ただ生きて、ただ毎日を充実させていればよかった江戸時代だからこそ、あんなに満足そうに性を楽しんでいるのではないだろうか。
「春画」というだけで顔をしかめる人もいるが、実際の春画展の雰囲気を知っているのだろうか。私は春画を楽しむと同時に、来ている人たちをこっそり観察しているのだが、みんな心から楽しんでいる。デフォルメされた性行為の画にくすくす笑ったり、色がきれいだねえと感心して小声で話し合ったり。
そして中には、「こういう大らかなセックスが羨ましい」とまで思っている人もいるのだ。
芸術だから感心しているわけでもなく、猥褻だから笑っているわけでもない。春画は、現代人の心にもストレートに訴えかけてくる力をもっている。
【DATA】
SHUNGA 春画展
2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)
※月曜休館(祝日の場合は開館)、開館時間は公式サイトをご確認ください。
※11/3から後期日程。各作品の展示期間が異なります。
住所:永青文庫 東京都文京区目白1-1-1
主催:永青文庫 春画展日本開催実行委員会