手向山八幡宮を参拝
若草山を下りたら、次は若草山のふもとにまつられている手向山八幡宮をお参りしましょう。手向山八幡宮は、奈良時代の東大寺建立のときに、守護神として九州の宇佐八幡を勧請して創建されたという神社。毎年10月5日に行われる、この神社の例祭「転害会(てがいえ)」は、八幡神を宇佐から勧請したときの様子を再現したもの。
手向山八幡宮
この神社の絵馬はちょっと変わっています。絵馬といえば、ふつうは「絵馬掛け」につるして奉納しますが、この神社の絵馬は立てて奉納するため「立絵馬(たちえま)」と呼ばれ、絵馬の原型ともいわれます。
その昔は、雨乞い(祈雨)のときには黒馬、晴天を祈る(祈晴)ときには白馬を神様に献上する風習がありました。後の時代に、生きた馬の代わりに奉納するようになったのが、馬の絵を描いた「絵馬」なのだそうです。最初は生きた馬に近い「立絵馬」から、次第に今現在、多く見られる絵馬の形に変化していったのでしょう。
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■手向山八幡宮
住所: 奈良市雑司町434
アクセス:近鉄奈良駅から市内循環バス「大仏殿春日大社前」下車、徒歩15分
拝観料:無料
ホームページ(奈良市観光協会) → http://narashikanko.or.jp/spot/index.php?m=d&id=55
ささやきの小径を歩いて高畑へ
手向山八幡宮の参拝を終えたら南に向かい、春日大社の二の鳥居から高畑(たかばたけ)方面への近道である「ささやきの小径」を歩いていきましょう。「ささやきの小径」は、道の両側に馬酔木(アセビ)の大木が生い茂る静かな散歩道。馬酔木は春先に、スズランに似た白い小さな花を咲かせます。
馬酔木には読んで字のごとく、食べた馬が酔ったようにフラフラになる毒があり、さすがの食いしん坊の鹿たちも食べないので、こんなに数が増えたのだとか。
馬酔木(アセビ)の花
ところで、「ささやきの小径」という名前、なんとなくロマンチックな響きがしませんか? 奈良市観光協会に問い合わせたところ、「道が静かなので、ささやき声でも話ができる」とか、「恋人同士がささやきあいながら歩く小径」というのが由来で、いつの頃からか、こう呼ばれるようになったのだそうです。
「ささやきの小径」。小径の先にある高畑町は、鎌倉時代には春日大社の神官たちが住み、明治から昭和初期にかけては志賀直哉をはじめ、多くの文人・芸術家が集まった。
ちなみに、この道には正式名所があり、「下の禰宜(ねぎ)道」といいます。「禰宜」とは、神社の神官のことで、小径の先にある高畑町は、鎌倉時代に春日大社の神官たちが住み、この道を通って通勤したことから、こう呼ばれるようになりました。
さて、ここから先は、食事をする場所も少なくなるので、腹ごしらえをしておきましょう。この界隈だと『たつや』といううどん屋さんが美味しいのでおすすめです。
新薬師寺で天平美術の傑作と出会う
高畑町で、ぜひとも立ち寄りたいのが新薬師寺という小さなお寺。秋口、国宝に指定されている本堂前には、零(こぼ)れるように萩が咲き、参拝客を出迎えてくれます。新薬師寺本堂と萩
ちなみに、よく誤解されるのが、お寺の名前の「新」の文字。これは「新しい」という意味ではなく、霊験あらたかなという場合の「あらたかな」の意味なのです。
このお寺で出会えるのが、天平美術の傑作と名高い、塑像(そぞう)の「十二神将像」(※)。塑像とは粘土などを材料として用いた像のことで、木彫が主流となる平安時代より前に、数多く創られました。
来る者を一歩も近づけまいとして、それぞれの武器を手に威嚇する12体の美しい神将たちは、今にも動きだしそうな躍動感に満ちあふれています。
※12体のうちの1体は、昭和の補作です。
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■新薬師寺
住所:奈良市高畑町1352番地
アクセス:近鉄奈良駅から市内循環バス「破石(わりいし)町」バス停下車、徒歩13分
拝観料:大人600円 中高生350円 小学生150円
ホームページ → http://www.shinyakushiji.or.jp/
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