雑貨/ハンドクラフト・工芸

5組の多彩な作り手が集う、東小金井atelier tempo

5組のクリエイターのアトリエと店舗が一緒になったユニークな空間「atelier tempo(アトリエ テンポ)」。シェアルームやシェアオフィスはここ近年増えていますが、こちらはシェアアトリエ&ショップといったところ。この場所だからこそできる試み、作り手それぞれの想いを伺ってきました。各クリエイターが作る商品もそれぞれ魅力的です。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド

 
atelier tempo店内の様子

atelier tempo店内の様子


JR中央線には、武蔵境、武蔵小金井など似た感じの駅名があって、どこがどれだか分からなくなってしまいがちですが、今回訪ねるのは東小金井駅です。駅を降り、線路沿いを新宿方面に歩いて数分の高架下にatelier tempoはあります。

高架下ですが、すっきり気持ち良い印象

高架下ですが、すっきり気持ち良い印象

こんな休憩スペースもあります

こんな休憩スペースもあります

この地域の歴史を語るプレートもあちこちに。

この地域の歴史を語るプレートもあちこちに。面白い試みです


「コミュニティステーション東小金井」内にあり、高架下というイメージを感じさせない、どこか清々しい雰囲気。ガラス張りの四角いコンテナのような一見モダンな外観、そして中へ入ってみると木を基調とした素朴で味わい深い空間です。まるで童話の世界に足を踏み入れたかのような、オリジナルの世界観があります。ここでは5組のクリエイターが同じスペース内に同居。ペットグッズ、革小物、革靴、絵とデザイン、食堂という、作るものもテイストも異なる5組ですが、緩やかに繋がりながら各自の持ち場を生かし、それぞれが独自の作品を発表しています。

dog deco HOMEのコーナー

dogdeco HOMEのコーナー


まずはみんなのリーダー的存在、「dogdeco HOME(ドッグデコ ホーム)」の池田功さんにお話を伺いました。池田さんは元々グラフィックデザイナーでしたが、犬が好きな奥様の影響でペットグッズに興味を持つように。当時の日本にはまだあまりセンスの良いペットグッズが少なく、アメリカやヨーロッパにあるお洒落なペットグッズブランド等に影響を受け、ペットと共に暮らす豊かなライフスタイルを提案できれば、と1999年よりこの事業に取り組みました。伊勢丹等にも出店しつつ、小金井に住み始めてからは、この地を拠点として永く暮らしながら商いができれば、とずっと考えていたそうです。

そして「はけのおいしい朝市」という出会いがありました。小金井市の国分寺崖線が通る辺りの地域は通称「はけ」と呼ばれ、緑豊かできれいな湧き水が流れています。その美しい自然の中で、人々が楽しく集い、一日をゆったりと過ごせてもらえたら、という想いから「はけのおいしい朝市」は始まりました。そこでは食べ物以外に、雑貨や本、古道具など、手仕事を中心としたものが並びます。出店しているのは、主にこの土地に深く関わってものづくりや商いをしてきた作り手。池田さんは朝市組合の中心メンバーとして関わっており、この高架下の開発が始まった時には、そこで繋がった仲間達に池田さんが声をかけたことで、atelier tempoができました。

safujiのアトリエスペース。作る様子が間近に見えます

safujiのアトリエスペース。作る様子が間近に見えます


atelier tempoは他の店にはないユニークな特徴を持っています。まず、アトリエと店舗を兼ね備えた場所であること。atelier tempoという名前の由来はそこからも来ています。ふらりと訪ねたお客さんが、ものづくりの様子を気軽に見ることができ、ものづくりの現場を身近に感じてもらいたいという思いがあります。作り手は自ら店主を務め、お客さんと直接やり取りしています。顔の見える商売には信頼や安心感があり、ものを丁寧に販売する真摯な姿勢が感じられます。

種類豊富でスタイリッシュなリードがたくさん!左下はsafujiとコラボした革製

種類豊富でスタイリッシュなリードがたくさん!左下はsafujiとコラボした革製


dogdeco HOMEでは、ペットのための様々なものが集まっています。ワンちゃん用のリードだけでも種類豊富!他ブランドとのコラボレーションも行っており、TEMBEAとコラボしたペットバッグや、atelier tempoメンバーである革小物作家のsafujiと一緒に開発した革製の首輪もあります。自分たちの目線で、自信を持っていいと思えるもの、本当に欲しいと思うものを作っていきたい、と語る池田さん。5月10日は犬猫の殺処分ゼロへの実現に向けた、ペットのためのイベント「&PETS Marche」もここで行われます。

グラノーラ専門店フラクタスとコラボしたワンちゃん用グラノーラ!そして職人手作りの鹿児島さん炭火焼芋(これもワンちゃん用)

グラノーラ専門店フラクタスとコラボしたワンちゃん用グラノーラ!そして職人手作りの鹿児島産炭火焼芋(これもワンちゃん用)

大島の椿油、国産蜂蜜、無農薬ハッカ油など体にいいものだけを使ったオリジナルシャンプーも(これもペット用です)

大島の天然ツバキ油、国産ハチミツ、無農薬ハッカ油など体にいいものだけを使ったオリジナルシャンプーも(これもペット用です)

ネコちゃんグッズもあります。木工作家サノアイさんのネコブローチも人気

ネコちゃんグッズもあります。木工作家サノアイさんのネコブローチは大人気!


次に訪ねたのは革小物作家「safuji(サフジ)」の沢藤勉さん、加奈子さん。バッグや財布を中心に夫婦で革小物を作っています。勉さんは学生時代から革が好きで、大学卒業後は革メーカーに勤め、10年後に独立。最初はメーカーの下請けもやっていたそうですが、クラフトフェアへの参加をきっかけに、自分たちでデザインや機能改善を行ったオリジナル商品を作るようになりました。

なめしの技術が高く発色も良く、使い込むほどに味わいが出るというイタリア・フィレンツェの革を使い、革の質感、存在感を最大限に引き出すような商品を開発しています。縫い目の見えない縫製もsafujiの特徴。そうすることによって、ラウンド部分に出る自然な光沢や、ふわっと優しい質感になることが、革ならではの魅力だといいます。さらに機能面でも使いやすさを追求。

All Aboutで「男のこだわりグッズ」ガイドの納富廉邦さんと共同開発したミニ長財布は、持ち運びにストレスがないサイズ感や、素早くスムーズなお金の取り出しに対応したこだわりの財布。こちらは納富さんのサイトに詳しい説明が載っているので、ぜひ参照してみて下さい。

商品は基本的にセミオーダーで、サンプルを見ながら好きな色やかたちを選び、場合によっては細かなオーダーに応じてもらえることもあります。少し時間はかかりますが、丁寧に作られた自分だけのオリジナルを手にすることができます。

質感の良い革財布。右は納富さんモデル

質感の良い革財布。右は納富さんモデル

safuji。写真はキーホルダー付きミニ財布。セミオーダーでカラーも選べる

キー付ミニ財布。セミオーダーでカラーも選べる

キーホルダー付きミニ財布。一見シンプルに見えて様々な工夫が。お札もカードも収納できる

キー付ミニ財布を開いたところ。一見シンプルに見えて様々な工夫が。コンパクトなのにお札もカードも収納できる


みんなでやることによって様々な人に気軽に来てもらえ、人の出会いが増える。ものづくりの仲間が集まったことで、何気ない会話の中からユニークなコラボレーションができる、など今まで自分一人だったらできなかったことが、このメンバーでこの場所だからこそ実現できることが嬉しい、と沢藤さんはいいます。「大人になったらそんなに友達は増えないと思っていたんですが、今頃になってどんどん増えている感じがします。同じ感覚を持った人と出会い、深い繋がりを持てることは、ここにいて本当に良かったことだと思います。」

coup?。小さな空間ですがアトリエを兼ねており、制作も行われます

革靴作家coupé。小さな空間ですがアトリエを兼ねており、制作も行われます


coupé(コッペ)」は、同じ職業訓練校を出たという中丸貴幸さん、美砂さん夫妻で手作りの革靴を作っています。昔からスニーカーが大好きで、革靴の作りに興味があった貴幸さんと、美大を出てものづくり、特に革に興味を持ったという美砂さん。靴のデザインは2人で各々アイディアを出し合って考えるそうですが、実際の制作については、底付け(ソール部分)は貴幸さん、製甲(甲の部分)は美砂さんが行います。

専門的技術が必要なため、それぞれが得意分野を担当しています。底付け作業はスペースが必要だったりするため、普段の店番は主に美砂さんが行っており、たまに貴幸さんが出てくる、というペースだそうです。「今までは夫婦でアトリエに籠っていたけれど、ここに来ることでがらりと環境が変わりました。様々な人とコミュニケーションできるのが良かったし、地元の人に見てもらえるのも嬉しい」と美砂さん。

ころんと丸いつま先がかわいい。男女各種デザインあります

ころんと丸いつま先がかわいい。男女各種デザインあります

こんな風に作業工程を見せてくれるのも嬉しい。靴作りのしくみについて丁寧に説明してくれる

こんな風に作業工程を見せてくれるのも嬉しい。靴作りのしくみについて分かりやすく説明してくれます

右にあるのは靴の革底を作るための道具

右にあるのは底付け用の道具


coupéの靴の特徴は、そのフォルム。特につま先の形にはこだわり、きれいな丸みが出るように丁寧な手仕事が施されています。この丸さがまるでコッペパンみたいだから、とcoupéの屋号が付いたそう。靴はセミオーダーで注文を受け付け、全てのサンプルが店にあり試着できます。かかととつま先には芯を入れてしっかり足にフィットするように、甲部分は柔らかく、足に負担がかからないようになど、作りには緻密な配慮がなされています。

また、coupéの靴はソールも全て革製。履き初めの頃は滑りやすい、また水に弱いなどの点はありますが、履き込むほどにその人の歩き方に合わせて自然に足に馴染んでくることが革の良さ。底付けにはいくつか製法があり、微妙に見栄えも違うので好みの作り方が選べます。ソールやヒールがすり減った場合は修理も可能。10年20年と永く使って欲しいという思いがあり、そこにも配慮した製法を行っています。

なんだろう?と目を引く白い小屋は、ヤマコヤさんのプチアトリエ

なんだろう?と目を引く白い小屋は、ヤマコヤさんのプチアトリエ


さて店内の一角にある、こじんまりと白い小屋のようなスペースは「ヤマコヤ」やまさき薫さんのコーナー。やまさきさんは、みんなが出会うきっかけにもなった「はけのおいしい朝市」や、atelier tempoのビジュアルイラスト・デザインを担当しています。イラストレーター・グラフィックデザイナーとして活動しながら、ここではオリジナルのポストカードやレターセットなどの紙ものと、セミオーダーのTシャツ、手ぬぐいなど布ものを販売。シルクスクリーンの作品作りやワークショップも行っています。

元々いつか小さな工房を作りたいと思っていたところ、atelier tempoに入ることになり、「ヤマコヤ」という屋号を思い付きました。自分の苗字である“やま”は入れたかったこと、また、ときどきワークショップをやるので“テラコヤ(寺子屋)”でもあり、旅人の通過点である“ヤマゴヤ(山小屋)”もイメージの中にありました。そんなことを心に秘めていたところ、ここの内装デザイナーから「小屋を作りませんか?」とまるで見透かされたかのように言われ、驚くと共に、自然な流れでこのかたちになったそうです。

鹿児島の「しょうぶ学園」の工房で漉いた和紙にシルクスクリーンでイラストを付けたポストカードたち

鹿児島の「しょうぶ学園」の工房で漉いた和紙にシルクスクリーンでイラストを付けたポストカードたち

オーダーで柄と色を選べる子供用Tシャツ。パンの柄が豊富で、ドーナツは人気!

オーダーで柄と色を選べる子供用Tシャツ。パンの柄が豊富で、ドーナツは人気!


「昔は例えば畳屋さんなどが近所にあって、作業風景を当たり前に見ることができました。ものを作っているところが普通に見られる街っていいな、と思うんです。お母さんに連れられてここに来た子供達が少しでも興味を持ってくれて、ものづくりの楽しさも大変さも、自然に伝えられたらと思っています」とやまさきさん。

またatelier tempoの一員となったことで、お互いに刺激を受けながら仲間と連動した活動ができ、自分が何かやりたいなと思ったときは相談すれば、多方面から支えてもらえることが心強い、とのこと。「みんな作っているものはバラバラだけれど、全て日常の暮らしの延長上にあるもの。根底の部分での価値観は一緒なんです。だからこの良き繋がりを生かして、作り手の想いをきちんと伝えられたらと思います。」

あたらしい日常料理 ふじわら 店内。カウンターとテーブル席があり、スペースをとったゆったり配置。

あたらしい日常料理 ふじわら 店内。カウンターとテーブル席があり、スペースをとったゆったり配置。


最後にご紹介するのは「あたらしい日常料理 ふじわら」の藤原奈緒さん。こちらはランチとディナーが食べられる食堂です。ここだけ普段は壁を区切った別スペースになっていますが、壁が引き戸になっているため、イベント時には解放して吹き抜けの空間にするそうです。北欧の小さな街にでもありそうな、シンプルだけれどほのぼのと居心地良く、気の利いたセンスを感じさせる空間です

。「食べ物がおいしそうに見えて、来た人が寛げるようなインテリアを心がけました」と藤原さん。料理は野菜を生かしたものが中心で、素材が変わるごとに少しずつメニューが変わります。素材は地元の農家さんから仕入れたものを多く使っており、夜は料理に合わせたワインや日本酒も飲めて、つまみのラインナップも豊富です。

ある日のランチメニュー。のらぼう菜のオイル蒸し、うど入り焼売、切り干し大根の和え物、にんじん梅煮、ごぼう酢漬、生姜菜めしとスープ

ある日のランチメニュー。のらぼう菜のオイル蒸し、うど入り焼売、切り干し大根の和え物、にんじん梅煮、ごぼう酢漬、生姜菜めしとスープ。コーヒーも付けられる


藤原さんがものづくりのベースとしているのは「びん詰め」。藤原さんはかつて長く地元のカフェで料理人として働いていましたが、外食というよりも日々の家庭の食卓に関わることを何かしたいという思いがふくらんでいきました。カフェを退職後は料理教室の講師や地域誌のレシピ提供などを行っていましたが、あるとき、手作りの調味料をイベントで販売したことで、自分がずっとやっていきたいと思うことが見つかったそうです。

びん詰めの調味料は家庭のごはんに寄り添うもの。藤原さんが本当に好きなもので、毎日使っても飽きのこない、かつ、いつもと違う味が簡単に作れる調味料をびん詰めにして販売したところ、大評判に。調味料はひとつひとつに誕生のストーリーがあり、そんな話を聞くのも楽しいのです。店はそのびん詰め調味料を販売するだけでなく、使った料理を実際に食べてもらえるお披露目の場でもあります。

「今はまだ少ないけれど、少しずつ種類も増やしていきたい。びん詰めの中身は、使い道が限られるものではなく、日常の中でイメージが自由に広げられるものを作るように考えています。お客さんに料理の感想を聞いたり、びん詰めをどう使ったのか教えてもらったりするのは、この場所があるからこそで楽しいです。また、いいものだけど例えばちょっと傷があったりして市場には出せない野菜などを活用することで、農家さんのお役に立てたらと思っています」

手作りの瓶詰めたち。生姜たっぷりの「カレーのもと」は北海道出身の藤原さん思い出の味。とびきり美味しいパクチーが手に入ったことでできた「香菜レモンオイル」。「おいしい唐辛子」は小さな子供のいる家庭のテーブルでちょい足しできるので、大人用に便利!

手作りのびん詰めたち。生姜たっぷりの「カレーのもと」は北海道出身の藤原さん思い出の味。とびきり美味しいパクチーが手に入ったことでできた「香菜レモンオイル」。「おいしい唐辛子」は小さな子供のいる家庭のテーブルでちょい足しできるので、大人用に便利!


各クリエイターがお互いに程よい距離感でいい関係を築きながら、刺激を受けたり助け合ったり。ここにいるメンバーは、dogdeco HOMEの池田さん以外は皆、初めてお店を出す人ばかりです。自分たちだけでは難しいと思われることを、同じ価値観を持つ仲間達と一緒に協力することで実現。シェアをするって、生活やビジネスが絡んでくるとなかなか難しいようにも思いますが、相手を信頼しつつ、本人達がそれぞれしっかりと揺るぎないビジョンと責任感を持って取り組んでいることが印象的でした。


atelier tempo 【アトリエ テンポ】 
https://www.facebook.com/ateliertempo
東京小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井内

coupé (革靴) http://coupe-shoes.com/
safuji (革小物) http://safuji.com/
dogdeco HOME (ペットグッズ) http://www.dogdeco.co.jp/
ヤマコヤ(絵とデザイン) http://yamasakikaoru.net/
あたらしい日常料理 ふじわら (食堂) http://nichijyoryori.com/
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