統合失調症の早期発見のために知っておきたいこと
現実と非現実の境界は、私たちの認識以上にぼやけやすいものかもしれません。
例えば、携帯電話が鳴った気がして、あわてて携帯を取ったが着信もメールもなかった……といった経験は誰にでもあるのではないでしょうか? 厳密に言えば、これも実際にはなかった「聞こえるはずのない音」が聞こえた気がしたという「幻聴」ですが、この程度ならば気に留めないかもしれません。
しかし、ある日突然、聞こえるはずのない声が聞こえ始めたら、いったい何が自分に起きているのか不安になると思います。実はこうした状況は統合失調症の初期症状である可能性もあり、大至急、精神科(神経科)を受診されるのが望ましいです。
今回はいかなる症状や異変が現われた際、統合失調症などの可能性を考えて、精神科(神経科)受診を考慮すべきかを詳しく解説します。
統合失調症の発症前に起こる異変……数日、数週間からそれ以上の期間出ることも
統合失調症を発症して、精神科(神経科)の受診にいたるのは通常、妄想や幻覚などの症状が顕著になってからです。統合失調症が発症する厳密なメカニズムは不明ですが、脳内神経伝達物質の機能などに問題が起きている事が判明しています。統合失調症の明らかな発症時に現われやすい妄想や幻覚などの症状は、脳内の問題がそれだけ深刻化した事を反映しています。しかし、統合失調症の発症前にも、脳内にはマイルドな形で何らかの問題が起き始めているわけで、実際に統合失調症の発症前には、数日、数週間あるいはそれ以上の期間に渡って、何らかの初期症状とも言える前駆症状が現われていることが多いです。
前駆症状の具体的な現われ方には個人差がかなりあります。例えば、「猜疑心が非常に強くなる」「昼夜逆転の生活になる」「少し意味不明な発言が目立つ」というような具合です。
前駆症状の現われ方が多様になる背景には、「統合失調症」という診断名が、その発症メカニズムではなく、現われている症状に対して付けられる病名であることも挙げられます。
統合失調症は、現実と非現実の境界がはっきりしなくなることを共通点とする、いくつかの病態の集まりです。それは前駆症状だけでなく急性症状の多様性にもつながっています。そのため、実際に現われた前駆症状の内容は、その後の急性症状の発症や再発の予兆を知るためにも重要になるのです。
統合失調症の初期症状・前駆症状の具体例……睡眠障害・猜疑心・関係念慮など
統合失調症の初期症状とも言える前駆症状は、基本的には統合失調症のマイルドな症状です。以下に現れやすい症状を挙げてみましょう。- 昼夜逆転の生活や不眠などの睡眠障害が現われる
- 学校の成績や職場などでの成果が急に悪化する
- 気分が冴えなくなる
- イライラしやすく物事に集中できなくなる
- 猜疑心が強くなってくる
- 思考に非合理性が増す
- テレビのコメントが自分を指した発言のような気がするといった「関係念慮」増える
- 壁の模様を蛾と見間違えるといった錯覚が多くなってくる
- 対人交流が急に減る
- 喜怒哀楽の感情があまり見られなくなってくる
- 独り言や特異な服装など、周囲の人には不可解な言動が急に増えてくる
統合失調症の前駆症状、精神科受診を判断する難しさは課題
上記のような症状が実際に現われた時、その時点で精神科(神経科)を受診するのが理想的であることは、冒頭で述べた通りです。しかし実際には、この時点での精神科受診はかなり難しいようです。それには幾つかの要因があります。まず、上記の症状の一つ一つは、程度の差を考えなければ、日常的に多くの人に現われ得るものです。症状がかなり深刻化しない限り、その問題性を病的なものかもしれないと認識しにくい可能性があります。また、症状が深刻化してしまった時点では、その症状ゆえに本人も合理的な思考で判断することがかなり難しくなっている可能性もあります。
また、統合失調症を発症しやすい年齢である15~30歳は精神的にも肉体的にも変化が大きな時期です。特に思春期は精神的な揺れも大きい時期のため、家族から見てそれまでと大分違う様子が見られたとしても、病的なものとは考えにくくなるかもしれません。もし子供が恋人にふられて部屋に閉じこもってしまったとしても、多くの場合は親はそっとしておくものでしょう。そのあとでノートなどに意味不明な走り書きなどを見かけたとしても、「ショックが大きかったのだろうな……」と心配はしても、その深刻さは見逃してしまうかもしれません。
統合失調症の急性症状が顕著になる前、まだマイルドな前駆症状が現われている段階で必要な治療を行なうことができたら、予後はかなり異なってくる可能性があります。もし自分あるいは身近な人にそれまでにない異変があり、統合失調症の可能性を感じられた時は、精神科(神経科)で相談してみることをぜひ考慮してみてください。