そろそろワクチンの時期ですね
動物病院から葉書が届きました。「もう1年経ったんだ、ワクチンを打ちに行かないと」と思って足を運ばれる飼主さん。毎年の行事になっていますが、そのワクチンの中身について、きちんと説明を受けていますか?飼主さんの中には、ペットショップ併設の獣医科病院に愛犬を預けて、「ワクチンもついでにお願いします」という方もあります。
お忙しいのはわかるのですが、これではどんなワクチンを打つのか、打ったあとどうすれば良いかなど、獣医師が説明したくてもできません。できればワクチンの中身について、もっと知っておいていただきたいのです。
そろそろ「お注射ですよ~」からは卒業して、賢い飼主さんになっていただきたいと思います。そういう理由で、いつもはできるだけ簡単に・わかりやすく書いておりますが、今回はたくさんの病名が出てきてちょっと読むのに面倒かもしれません。どうぞご容赦ください。
病原体はどこからでも侵入する
あっという間に1年、ワクチンの時期です
どんな病気を予防するのか
まず、犬の伝染病についてのお話です。大きく分けて、呼吸器(肺や気管支)に症状のでる病気と、全身感染に至る病気、消化器(胃や小腸・大腸)に症状の出る病気があります。それらの原因となる病原体は下記の通りです。
※括弧内は病気の名前
1:呼吸器に症状の出る病気の病原体
- 犬アデノウイルス2型 (犬喉頭気管炎)
- 犬パラインフルエンザウイルス (犬パラインフルエンザウイルス感染症)
- 犬アデノウイルス1型 (犬伝染性肝炎)
- 犬ジステンパーウイルス (犬ジステンパー)
- 犬パルボウイルス (犬パルボウイルス感染症)
- 犬コロナウイルス (犬コロナウイルス感染症)
そもそも「ワクチン」とは?
ヒトの場合も動物の場合も、「ワクチン接種」として注射されているもの、その中身はなんでしょうか?ワクチンとは動物の免疫機能を利用して病原性を弱めたり、無くしたウイルスや細菌を体内に入れることによって、予め免疫を作る予防薬です。体内に「免疫」を作るのがワクチンの目的です。ウイルスや細菌に感染しても、それらに対する免疫があると、病原体をすぐに排除して病気にかかりにくくなります。
「ワクチンには細菌やウイルスが入っている!」と怖がる必要はありません。病原体は体内で悪いことをせず、免疫だけを作るように調整されているのです。
ワクチンの種類には
■生ワクチン
■不活化ワクチン
の2種類があります。
生ワクチンとは、病原体の増殖能力はありますが、病原性がない、もしくは少ないものです。液性免疫のみならず、細胞性免疫もえられます。
不活化ワクチンとは、増殖能力、病原性ともにありません。液性免疫が主体になります。ワクチンメーカーは、最も効果的な抗体値の上がり方を得られるように、生ワクチンと不活化ワクチンを使い分けています。
母犬からの免疫だけでは予防できない
ここでよく受ける質問にお応えをしておきます。その質問とは「ヒトだってお母さんの初乳を飲むと、免疫ができるというのに、犬にはそれがないのですか?」
もちろんあります。母親から子供に母乳を介して移る抗体を「移行抗体」と呼びます。生まれたばかりのときはこの移行抗体の抗体値が高く、子供は病気から安全に守られています。しかし、その抗体がいつまでも持続するわけではありません。
犬ジステンパーの抗体半減期(抗体の値が最大値のときからみて半分になる時期)は8.4日、犬アデノウイルスでは8.7日、犬パルボウイルスでは9.7日です。
このように、生まれてから10日以内に、お母さん犬からもらった免疫力は半分になってしまうのです。そして生後12週前後で、この抗体は消失してしまいます。
ワクチンの1回目を生後42日から60日に接種するということには、それなりの理由があるのです。
動物病院で打つワクチンの種類
さて、伝染病の種類とワクチンの意味についてはおおよそご理解いただけたと思います。実際にどんなワクチンが接種されているかです。飼主さんにぜひ質問していただきたいのは、
たとえば「キャナイン6」というワクチンでは、犬パルボウイルス感染症犬ジステンパー・犬伝染性肝炎・犬喉頭気管炎犬・犬パラインフルエンザウイルス感染症・犬コロナウイルス感染症の6種類が予防できる成分が含まれています。海外メーカーのワクチンですと、たとえば犬ジステンパーや犬伝染性肝炎の予防ワクチンが含まれていないことがあります。「このワクチンでどんな病気が防げるのですか?」ということです。
しっかりした動物病院であれば、その点をきちんと説明できるはずです。病気の症状についての説明もしてもらえると思いますので、
ワクチン=毎年の定例作業
と思わず、せひ新しい知識を得る機会にしてください。
(協力:株式会社微生物化学研究所)