まるで空を飛んでいるかのよう
身長174センチの私がまたがって、カカトが浮く足着き。オートバイとしては標準的な車高だという印象です。ハンドルバーはカフェレーサーらしくセパレートタイプになっていますが、よくよく見てみると反り上がるような形状で窮屈にならないよう配慮された仕様に。カフェレーサースタイルはオートバイに覆いかぶさるような姿勢が求められるのですが、このハンドル位置にはライダーに無理をさせすぎない配慮を感じます。ちょっと遠出をしても、腰を痛めたりすることはなさそうですね。気になったのは、またがった際のシートの幅広さ。これ、海外メーカーモデルにはありがちなのですが、股間部分がちょっと広いんです。ここが広いと、足の付け根が外向けにならざるを得なくなり、がに股のような姿勢になってしまいます。足がまっすぐ下に降りた方が足着きは良いわけですので、ここはちょっと残念なところ。ハーレーだと細身の国産製シートに換えるという方法がとれますが、モトグッツィの同モデル用交換シートというのは聞いたことがないので、「そういうものだ」と理解して乗るか、気になる人はワンオフで作るほかないですね。
エンジンを始動させて、まずビックリ。セルスタートして軽くスロットルをひねると、ドルン!という動きにあわせて車体が一瞬右側に振られるんです。そう、ここがモトグッツィの縦置きVツインエンジンの特徴。車体に対して真横に置かれるハーレーの場合、その動きは“縦への推進力”を生み出します。端的に言えば、ハーレーは直進型オートバイというわけです。荒野に伸びる一本の道をどこまでも走っていくために生まれたアメリカを走るためのバイク、それがハーレー。
翻ってモトグッツィは、そのVツインエンジンが縦に置かれています。基本的にオートバイは直進する乗り物ですが、そこに左右への振り子のような動きが加えられるのです。これによって、オートバイに必要な動きである旋回性の向上がはかれるわけです。
コーナリングの際、慣性の法則で曲がろうとする方向の反対側へとG(重力)がかかる。クルマの場合は四つの足(四輪)で車体バランスを安定させながら曲がっていくが、オートバイは曲がる方向(イン)へ車体を倒し込んでいかねばならない
カフェレーサーとは、ストリートシーンでより速く走るためのスタイル。そのストリートシーンの中心である都心部は道が入り乱れており、信号での右左折やカーブも多く存在します。となると、このモトグッツィの高い旋回性がしっかりと活きてくるのです。イタリアが生んだイギリスの伝統というコラボモデルは、それぞれの特徴を理解しあいながら最高のパフォーマンスを生む一台としてまとまっていると言えるでしょう。
どちらかと言えば、円を描いているような感覚さえわいてくるV7レーサー。ハイウェイを走っていると、一定速度を超えると浮遊感のような感覚に包まれます。744ccと、一般的には大型に区分される排気量のモデルですが、実際に“楽しいと思える部分”は時速60キロから90キロぐらいまでの中低速域ではないでしょうか。3速ぐらいで引っ張りながらキュンキュンと旋回させていくのがすごく楽しい。この領域もいわゆるストリートシーンにあたるので、カフェレーサーというキャラクターの特性にしっかりマッチしていますね。
ツボを押さえたファクトリーカスタムモデル
132万3000円をお値打ち価格と言った理由は、随所に見受けられるV7レーサーならではのディテール。赤く塗装されたフレームやホイール(ハブ)、メッキ加工のフューエルタンク、スエード仕様のシート、他モデルよりもグレードアップされたブレーキやサスペンションといった足まわりなど、モトグッツィのクラシックネイキッドモデルのなかでも群を抜いたハイグレード仕様になっています。仮に、V7 STONEをベースにここまでカスタムしたとしたら、その差額ではおさまらない費用がかかることでしょう。それぐらいオリジナリティが込められつつも、お買い得とさえ思わせる価格になっているのです。もちろんカフェレーサーとしてのキャラクターの強さがその根底にあるので、自分の遊び方に合っているかどうかをしっかり吟味し、近くの正規ディーラーで試乗の機会を持ってみることをオススメします。ひとたび走り出してみれば、全身でV7レーサーの魅力を体感することができるでしょう。