まずはJR七尾線で七尾、和倉温泉へ
能登への鉄道の旅の起点はJR金沢駅。北陸新幹線の当面の起終点である。能登半島にある和倉温泉は人気の観光地なので、大阪、名古屋からは、長年、七尾線経由で和倉温泉駅に直通する特急列車「サンダーバード」「しらさぎ」、それに越後湯沢からの「はくたか」が走っていた。
北陸新幹線金沢開業に伴い、「サンダーバード」1往復を除いて、和倉温泉駅行きの直通特急列車は廃止となる。その代わり、新幹線に連絡する形で、新しい特急列車「能登かがり火」が金沢~和倉温泉を5往復するので、のと鉄道へのアクセスは便利だ。
JR七尾線の終点和倉温泉駅から線路はさらに延びている。これを含め、七尾から先が「のと鉄道」の路線で(七尾~和倉温泉は、JR西日本との共用区間なので、JRのフリー切符は和倉温泉駅まで有効となる)、現在は穴水までの33.1km、途中、和倉温泉駅以外には5つの駅があり、各駅停車の列車が走っている。
ただし、和倉温泉駅から先は架線のない非電化路線なので、和倉温泉駅までやってきた特急電車が穴水方面に乗り入れることはできない。逆に、のと鉄道のディーゼルカーは、七尾から和倉温泉を通って穴水まで運転している。厳密には、全線にわたって線路などの施設はJR西日本が保有し、のと鉄道は線路を借りて列車の運行に携わる会社なのだ。
のと鉄道の旅、その1(七尾~能登中島)
七尾駅でJR七尾線の金沢発の普通電車から降りる。特急以外は七尾駅が終点なのだ。跨線橋を渡って駅舎側のホームに移ると、先端部にディーゼルカーが停まっている。手前には改札があって、係員が切符をチェック、JRの和倉温泉駅まで有効な切符を持っていれば見せるだけでのと鉄道ホームに入れる。
昼間だったせいで、ディーゼルカー1両だけの列車は、すべてのボックス席が埋まった状態で出発。女子高校生風の明るいアナウンスで車内放送がある。そういえば、車体はアニメ「花咲くいろは」のラッピング車両で若い女性の姿が何人も描かれていた。のと鉄道の駅や沿線が名前を変えてアニメに登場していることから、ラッピング車両が走っているのだ。
温泉地の最寄り駅らしく改札口ののれんがかかる和倉温泉駅では観光客が何人も下車、列車はいよいよ鄙びた雰囲気の非電化区間に入る。
次の停車駅は田鶴浜(たつるはま)。「建具の街」というのが駅の愛称で、改札口の上に書かれていた。300年の伝統を持つ建具製造を今に受け継ぐ由緒ある町である。また、地元の高校の最寄り駅で、帰りの列車には、アニメに描かれているような女子高校生がこの駅から大挙乗ってきて賑やかになった。
田鶴浜を出てしばらくすると、右手に海が見えてきた。能登半島と能登島に挟まれた七尾湾(このあたりは七尾西湾)で穏やかな水面である。やがて海岸線近くを走るようになる。打ち捨てられたような廃屋と小舟が目に留って侘しい。
笠師保駅には恋火駅という愛称がついている。年に一度、7月最終土曜日の夜に、男の神様と女の神様が海の上でランデブーを楽しむというロマンチックなストーリーを秘めている塩津かがり火恋祭りがこのあたりで行われるからだ。
この先は、しばらく海岸を離れて内陸部を走る。能登中島駅は、演劇ロマン駅という愛称がついているが、それよりも反対側のホームに横付けされた状態で保存されている青い郵便車オユ10形が目立つ。以前は、穴水より北にあったのと鉄道の甲駅に留置されていた鉄道車両だが、穴水より北の路線が廃止となったので、ここに移設されたものだ。かつて国鉄時代には全国で活躍した郵便車は、鉄道郵便の廃止と共に消え、現在残っているのは、この駅のものを含めて2両のみという貴重な車両である。
次のページでは、穴水へと旅が続きます