ライダーの技術と知識アップこそが安全性の向上
ABS機能の有無で車両を選べる現状に対し、義務化されるとなると、総じてオートバイの車両価格が高まってしまいます。極端なことを言えば、50万円の新車が75万円になってしまうということ。これ、ユーザー側にとっても有り難くなく、なおかつ販売側(メーカーや小売店)にとっても困った話。価格が高まれば、ユーザーの購買意欲を削いでしまいかねませんから。ABS機能が義務化された場合、仮に、とあるモデルの販売価格が義務化前とほぼ変わらない価格だとすると、それはもしかしたら、別の箇所のパーツや機能のレベルが落とされているかもしれないのです。あくまで推測の域を出ませんが、本来高い次元でのライディングこそがオートバイを操る最大の魅力であることを考えると、売る側の都合でパフォーマンスダウンしたものが店頭に並べられてしまう可能性があるというのは、ユーザーにとってデメリットでしかありません。
また、オートバイを操ることの軸を電子制御としてしまうと、不測の事態が起こったとしても、それへの対応をすべてコンピュータにゆだねることになってしまいます。交通事故というのは、誰にも予測できないから起こってしまうもの。この世のあらゆるシチュエーションをコンピュータが判断し、完全に対応できるのか……と言われれば、答えはノーでしょう。私たちの命を預けられるほど、コンピュータは万能ではありません。
クルマもオートバイも同じですが、操るのは人、つまりライダーです。不測の事態に対してベストな判断を下せるのは、ライダー自身にほかなりません。それも、しっかりとした技術と経験値を備えたライダーに。となると、よりよい交通社会を生み出す安全性を高めるためには、ライダーのライディングスキルと知識の向上こそが最善の策だと言えます。コンピュータはあくまでライダーの運転をサポートする程度。すべてをゆだねてしまうことは、この先も出来ません。
安全性のレベルを高めるべきは、モノではなく、ヒト。結局、どれだけオートバイの性能がどんどん上がっていこうが、それを操るのはライダーなのですから、操る側のスキルと知識のアップをはからねば、宝の持ち腐れ。アプローチを間違えてはならないのです。
なぜ義務化? どこからこの話が?
その安全運転に対する啓蒙活動(ライディング講習会など)については、前述したとおり警視庁が執り行っており、それに対する結果も出ています。また、ABS機能そのものは良い機能ですし、それ自体は否定されるものではありません。そこに加え、ABS機能の有無で好きなモデルを選べる時代でもあるのです。事故は減っている。
その結果に対する啓蒙活動も存在する。
そのなかで、安全面という点でユーザーが選べる環境がある。
何ひとつ、ネガティブな要素がありません。
だからこそ、なぜ義務化?なのです。
そう、義務化、すなわち強制というところが一番の問題。ABSの装備が強制となると、当然バイク教習所での急制動の教え方も変わってきますし、それ以前のモデル(中古車)はどう対応するの?という問題も出てきます。ブレーキングそのものに対するアプローチが根底も変われば、そのABSの誤作動による事故が発生した場合、どう処理されることになるのか(いわゆる責任問題)。義務化には、拘束力がある反面、それにともなう十分な環境整備や法整備が必要になります。おいそれとやれる手続きではありませんし、それを今やる必要性が感じられないのです。
ABSそのものはすばらしい機能です。ただ、現状を鑑みれば、使う側が選べば済むことで、そのことに対して一般の方から不満の声が出ているわけでもありません。にもかかわらず強制となるというのは、何か違うベクトルの力が働いているのか?と勘ぐってしまいます。・オートバイが重くなるので、ユーザーにとってもデメリットでもある
・価格だって上がるので、お財布にも優しくない
・販売側だって、この法案で価格を上げても旨味はない
・一般人から「ABS付きオートバイじゃなきゃダメだ」という声はない
どうして警視庁と国土交通省とで、こうも見解が異なるのか。私にその理由を知る術はありませんが、オートバイのABS義務化を提案した方に、その理由を伺いたい気持ちです。
とはいえ、今回の話題で改めてABSについての議論がなされること自体は良いことでもあります。ユーザーの方には、ABSというシステムののメリットとデメリットをしっかりと知ったうえで、より安全なバイクライフを心がけてもらえればと願っています。