思いを伝え合えば、「無意識の歩み寄り」が始まる
繰り返しになりますが、喧嘩の目的は相手をたたきのめすことではなく、相互理解です。相互理解とは、相手の価値観に自分を合わせることではありませんし、その逆でもありません。「相手はこういう価値観に基づいて、こういう思考・判断・行動をしているんだな」という状況をただ「知る」ことです。それだけでいいのです。つまり、お互いの本音を知れば、喧嘩の目的は達成されたということです。目的が達成されたら「仲直り」ですよね。「それじゃ何にも解決しないじゃないか!」って思うでしょう。でも大丈夫。夫婦でお互いにいいたいことを言い合うだけで、あとはほうっておいても、いい解決策に勝手にたどり着きます。これを私は「無意識の歩み寄り」と呼んでいます。
たとえば、飲んで深夜12時に帰宅したパパに「せめて11時くらいには帰ってきてよ」と詰め寄って、パパはパパで「だって、途中でオレだけ帰るってわけにもいかないだろう」なんて反論して、喧嘩になったとしましょう。
そこで、ありがちなのは「門限を11時にします!」「そんなの無理!」みたいな綱引きや、「間をとって11時30分には帰ってくるっていうルールはどう?」みたいな駆け引きですね。そんなことをしているうちに、話がますますこじれて収拾がつかなくなってしまうというパターン、よくあるでしょう。でもそれ、しなくていいんです。
まずはお互いの考えていることを説明します。たとえば、ママのほうはなぜ12時だとダメで11時だと許せるのかというようなことを説明するのです。パパのほうは、どうして遅くなってしまうのかという事情を話すという感じです。そうやって、それぞれの頭の中をさらけ出して共有します。それで、喧嘩はおしまいです。
すると、数日後、11時45分に旦那が帰ってくるという現象が起こったりします。「ママに言われたから」という「意識」はないんだけど、わざわざ遅く帰ることもないかなという気持ちに自然となるのですね。ママのほうも、「この前言うべきことは言ったから、これ以上うるさく言う必要もないかな」と、小言は言わない。
すると今度はなぜか11時30分に帰ってくるようになる。ママもいつもよりちょっぴりにっこりお迎えする。するとさらに翌日は11時15分くらいに帰ってきて……。ママも、「ま、これくらいならいいか」なんて思えるようになっていたりして……。みたいな好循環が起こるんです。
もめごとも乗り越えれば二人の宝物になる
本人同士でも気づかないうちに、じわりじわりと「いい落としどころ」に向けて、無意識的に歩み寄ることができるんです。心理学では「人間の行動の9割は無意識が決定している」などといいます。「自分にとって大切なあの人が、実はこんな問題意識をもっているんだ」ということが情報としてインプットされると、それをもとにして無意識が勝手に自分の行動を誘導するんです。その証拠に、みなさんも「数カ月前に激しく喧嘩して、その後特に何のすりあわせもしていないのだけれど今さら喧嘩する気はならないな、ま、いっか」と思った経験がたくさんあるんじゃないかと思います。
「必要な夫婦喧嘩」を先送りにしていいことはありません。ときには勇気をもって腹の中をさらけ出し合いましょう。腹の中をさらけ出し合うからといって、必要以上に相手を傷つけたり叩きのめしたりする必要なんて全然ないんです。
問題意識を共有するだけでいいんです。
こうやって、夫婦喧嘩を繰り返し、お互いの腹の内をさらけ出し合い、常に問題意識を共有することで、夫婦の相互理解や絆が深まり、夫婦関係は進化していくのです。上手な夫婦喧嘩の心得さえマスターできれば、夫婦喧嘩が怖くなくなります。「もめごとも乗り越えれば二人の宝物」と思えるようになります。それが本当の夫婦の信頼関係ではないでしょうか。