選手人生で一度の重大局面に限られる
しかし田中投手の場合、あの場面はチームの日本一がかかった球団創設以来初のチャンスであり、本人にとっても大リーグ移籍を控え、日本で投げる事実上の最後の試合。つまり田中投手にとって野球選手として一生に一度あるかどうかの重大局面だったからこそ、選手生命を危険にさらしてでも投げる理由があったと思われる。
もしあの試合がシーズン半ばの、優勝もなにも懸かっていない試合であれば、あのような登板はあり得ないはずだ。
囁かれる故障原因
その後田中投手はニューヨーク・ヤンキースに移籍したが、シーズン半ばで右腕を故障することとなった。もちろん、あの連投が原因かどうかは証明できないが、因果関係を疑っている関係者がいるのも事実である。ちなみにメジャーリーグでは、投球数の制限を課すなど、故障の要因から、選手個人の判断や監督の采配などを切り離す仕組みづくりが行われている。
素晴らしい選手を守るための仕組み作りを
フィギュアスケートに話を戻すと、かつてリレハンメルオリンピックで、女子シングルのオクサナ・バイウル選手(ウクライナ)が、フリー前日の練習中に他の選手とぶつかり、足に大怪我を負ったが、強行出場して金メダルを取ったことがあった。このように、オリンピックなど、選手としての最終目標のような重要な試合であるなら、選手生命を賭けて出場することに異論を挟む人はいないだろう。
しかし、すでにオリンピック金メダリストとなっている羽生選手にとっては、中国杯は数ある試合の一つと言えるのも事実。そうした試合にも全力で挑むのが彼の素晴らしさであるが、だからこそ、その素晴らしさが彼の選手生命を縮めるような皮肉なことがあってはならないのだ。
こうした素晴らしい選手たちを守るため、国際スケート連盟には、一刻も早く、アクシデントの際の出場可否を決めるルール作りに取り組むことを期待したい。