FLHXS ストリートグライドSはメガクラスのストリートモデル
フロントマスクであるバットウイングフェアリング(通称ヤッコカウル)は、ハーレーダビッドソンの旗艦モデル ウルトラの顔として広く知られています。当然その顔を見れば、「ああ、ツアラーモデルだね」と思うところ。超重量級のツーリングパッケージモデルで北海道や九州、はては日本全国を走り回せてしまう……。ところがこのストリートグライドは、そんな既成概念を覆すモデルなのです。そう、その名にあるとおり、街中を駆け抜けるチョップドハーレーという考え方から生まれたストリートバイク、それがこのストリートグライドです。車重は372kgと、上にはウルトラやFLTRXS ロードグライドといったモデルもありますが、それでも超重量級モデル。正直、撮影時の押し引きは相当に大変でした。普段乗っているハーレー・スポーツスターでさえ約220kgほどですから(カスタムして40kgほど軽くしています)、数値だけ見ても150kgアップ。成人男性ふたり分は増えている計算です。
ストリートバイクと言うと、ヤマハSR400やヤマハ ボルトのように軽量かつ軽快な走りが特徴的なカテゴリー。ストップ&ゴーが多い日本の都心だとクイックな性能が求められるので、自ずとそうした仕様になってしまいます。そうしたことを前提にこのストリートグライドを見てみると……クイックの意味がかなり違っているのはお分かりいただけますね。
2006年にハーレーのニューモデルとしてデビューしたストリートグライドは、ハーレーのフラッグシップにして大陸横断モデルであるウルトラをベースに、不要なものを削ぎ落し、大柄でありながら街中を駆け抜ける一台という定義付けでした。背景にあったのは、アメリカで人気が高まっていたバガースタイルというストリートカスタムカルチャーの存在です。
ハーレーカスタム本来の楽しみを秘めた一台
バガーとは、ツアラー系モデルをベースに迫力あるカスタムとグラフィックを施してクールな一台に仕上げるスタイルを言います。フロントタイヤをやたらと大きくしたり、カウルやフューエルタンク、シート、リアエンドをオリジナルの形状にカスタムしたり、そのうえで走行性能をアップさせたり……。いわゆるアメリカの不良にーちゃんが好むスタイルですが、カスタムカルチャーが根付いている国なので、ダサい日本の暴走族などと違ってスタイルが洗練されています。つまりストリートグライドは、そうしたバガースタイルに憧れる若年層に対して「バガーカスタムに最適ですよ」というメッセージを込めたメーカー提案型カスタムベースモデルというわけです。BMW Motorrad R nineT と同じ考え方ですね。近年ではメーカー提案型カスタムモデルとして、XL1200X フォーティーエイトといったファクトリーカスタムモデル(メーカーがカスタムしきっちゃったもの)が多く輩出されていますが、出来合いのものよりも自分でコツコツと理想のスタイルに仕上げていくことこそカスタム本来の楽しみ。ストリートグライドは、ハーレーダビッドソンが100年以上続いてきたことの源流にあるカスタムカルチャーに基づいて生み出された一台なのです。
最近は日本でもバガーカスタムに着手するオーナーも増えつつありますが、やはり本場のそれは本気度が違うというか、遠慮がないというか、とにかくスゴいですね。それではこのストリートグライドをもっと深堀りしていきましょう。