お役所としては稀に見る交渉手腕
元外交官で作家の佐藤優氏は、著書の中で交渉一般について次のように語っている。「交渉を行うことで、こちら側の利益が損なわれることが明白である場合は、交渉を行ってはならない」(『交渉術』文春文庫)
外交では譲歩したほうが負けである以上、そうした局面に至らないよう、「交渉しないための交渉」(佐藤優)が必要というわけだ。
それは問題が遡上に上がらないための手を打つことを意味している。
ぼくは外交についての専門的知識はないが、少なくともそれが「駆け引きのメカニズム」に立脚していることははっきりとわかる。
その意味において、今回厚労省が放った「日本人はカジノ利用禁止」を働きかけるという方針は、外資カジノが日本人の金をターゲットにすることに釘を刺す、なかなかの一手だ。
むろん、日本人がカジノを利用できるかどうかは厚労省が決めるわけではなく、カジノ推進法案可決後に1年かけて作成されるカジノ実施法案にて規定されるものであるし、おそらく日本人も利用可能になるだろう。
しかし今回の厚労省の方針は、いざカジノが解禁される段階となった時に日本側が不利な交渉を強いられないためのガードとなる。
今回、厚労省でどのような議論が行われたかをすべて知るのは難しいが、もし駆け引きのメカニズムを理解した上で出された結論であったとすれば、日本の省庁が本格的な「ブラフの技術」を使った点で、大変な成果と言えるだろう。