派手さはないが高級感漂う伝統が育んだスタイリング
まず、この英国のモーターサイクルメーカー トライアンフについてご紹介しましょう。トライアンフとしてのモーターサイクルが世に登場したのが1902年、あのハーレーダビッドソンよりも一年早いのです。手がけた企業(貿易商社)は1885年の創業で、当時の日本は明治18年。その歴史の深さたるや、他のモーターサイクルメーカー以上と言っていいでしょう。
さまざまなライバルメーカーとの熾烈な競争を繰り広げてきたトライアンフでしたが、1983年に惜しまれながらも生産工場が閉鎖。その歴史に終止符が打たれた……かに思えた2年後の1985年、実業家ジョン・ブローア氏の手により復活、トライアンフは息を吹き返しました。現在、ハーレー(アメリカ)やBMW Motorrad(ドイツ)、ドゥカティ(イタリア)と肩を並べる海外メーカーとしてさまざまなスタイルのモーターサイクルを輩出しているのです。
トライアンフのモデルラインナップに目をやると、ネオクラシックにスーパースポーツ、デュアルパーパス、ツアラー、クルーザーなど、あらゆるスタイルのモーターサイクルを取り揃えていることに気付かされます。どんなライフスタイルにも応えてくれる幅広さが大きな魅力と言えますね。そして今回ご紹介するボンネビルT100は、トライアンフのなかでもフラッグシップモデルとも言える人気の高いモデルで、ボンネビルを知らずしてトライアンフは語れないと言ってもいいほど。
このボンネビルT100のベースとなっているのは、今から半世紀以上も前に手がけられた名車トライアンフ T120 ボンネビル(1959年)というモデル。その名の由来は、アメリカ ユタ州ボンネビル ソルトフラッツという地名から。260平方キロメートルとも言われる塩湖の平原で毎年開催されるモータースポーツ『ボンネビル・スピードウェイ』にて、1956年トライアンフが当時のワールドレコードとなる214マイル(時速約342.4km)を叩き出したのです。“世界最速の市販車”にふさわしい名前で世界デビューを果たした祖先を持つモデル、それがボンネビルT100なのです。
その特徴はなんといってもスタイリング。ネオクラシックというカテゴリーを代表するだけあって、ベーシックながら落ち着きのある佇まいが魅力的なモデルです。この現代版ボンネビルが再登場したのが2001年で、大排気量傾向にあった世界のモーターサイクルシーンで、このボンネビルもエンジンが大きくなってはいるのですが、それを感じさせないデザイン力で流麗なシルエットにまとめられています。865ccという排気量を感じさせないコンパクトなシルエットからは、「往年のボンネビルを再現させたい」という開発陣の強い意志を感じます。
そんな現代版ボンネビルの乗り心地はいかがなものか。そのライディングフィールに大きく影響する部分という意味で、実はトライアンフには驚くべき秘密が隠されているのです。