敗因はひとつではない

ブラジルで味わった苦汁は代表チームだけのものではない。日本サッカーの発展を願うすべて人々が、それぞれの立場でブラジルW杯への過程を見直さなければならない。

ブラジルで味わった苦汁は代表チームだけのものではない。日本サッカーの発展を願うすべて人々が、それぞれの立場でブラジルW杯への過程を見直さなければならない。

日本代表の敗因は、複合的なものだ。何かひとつが欠けていたから、グループステージで最下位に終わったわけではない。

アジア全体のレベルが、世界のトップレベルに追いついていなかったのも確かだ。オーストラリア、イラン、韓国も、日本と同じように1勝もできずに大会を去っている。強豪揃いのヨーロッパと南米はもちろん、アフリカや中南米がベスト16へチームを送り込んだのとは対照的だ。日本が直前のテストマッチで勝利したコスタリカは、史上初のベスト8進出を果たした。アジアそのものの競争力が、他の大陸に比して低いと言わざるを得ない。

世界のトップクラスと日本が伍して戦うには、ピッチ外の攻防で優位に立つのが重要なテーマである。コンディションで相手を上回るのは、勝利をつかむための最低条件と言っていい。

日本がキャンプ地に選んだイトゥは、サンパウロから車で1時間半ほどの静かな街だ。宿泊施設とグラウンドは、徒歩で移動できる。練習環境としては申し分ない。アルベルト・ザッケローニ監督も、「最高のベースキャンプ地。これ以上の環境はなかった」と話している。

同じイトゥに滞在し、日本の試合会場へ移動した僕の肌触りは違った。

夜になると寒さを感じるイトゥから、レシフェ、ナタル、クイアバへ向かう。いつも感じたのは、気候の違いだった。

日本が試合をした都市は、どこも暑いのだ。17時開始のデーゲームだったクイアバは、空気が乾燥していて中東を訪れたかのようだった。日本に詳しいブラジル人に言わせると、「軽井沢から沖縄へ行って試合をするようなもの」とのことである。

日本代表のスポンサー企業が現地法人を構えるイトゥに滞在することで、チームが享受できたメリットはあるだろう。だが、避暑地からリゾート──レシフェとナタルはまさに沖縄のようだった──へ行くプランが、選手のコンディション管理において最適だったかは疑問だ。


ブラジルと日本におけるテレビ報道の違い

ブラジルのテレビで、選手のインタビュー映像が紹介される。画面の下にはテロップが出る。たとえば、ブラジル代表のキャプテンを務めるチアゴ・シウバならこうだ。

「ZAGUEIRO DO BRASIL」

ブラジルのセンターバック、という意味だ。日本代表ならば、名前を補足する情報は所属クラブと年齢が一般的である。この違いは何を意味するのか。

「その選手がどのクラブでプレーしているのか」は、ブラジルの国際試合では重要視されていない、と考えることができる。試合やニュースを伝えるテレビ局も、視聴者も、その選手はチームに貢献できたのかをはっきりさせたいのではないだろうか。

失点の多かった試合のあとに、センターバックがテレビの質問に答える。当然ながら、なぜ失点をしたのか、何が良くなかったのかについての質問を求められるはずだ。センターバックにはセンターバックなりの言い分があるはずで、技術的、戦術的な領域にも話は及ぶだろう。ポジションを明示することによって、視聴者側にも「そのポジションの選手が、どういった狙いを持ってプレーしていたのか」が伝わりやすい。選手の言い分が視聴者の共感を誘うかどうかはともかくとして、サッカーへの理解が深まるきっかけにはなるだろう。

日本は違う。

代表選手がどのクラブに所属しているのかを伝えるメディアに、僕は「この選手はヨーロッパのクラブでプレーしているんですよ」とか、「こんなにも有名なクラブに在籍しているんですよ」と言った付加価値を与えたいとの意図を感じるのだ。サッカーへの理解を深めるのではなく、まずは観てもらうための情報発信である。

日本の選手がヨーロッパのクラブでプレーするには、もはや驚きではなくなっている。ブラジルW杯のメンバーから漏れたものの、今夏からヨーロッパのクラブへ移籍する選手もいる。

とはいえ、代表クラスがヨーロッパのクラブに在籍するのは日本だけではない。W杯に出場する国ともなれば、それもベスト16に食い込む国ともなれば、ごく当たり前のことである。

所属クラブについて言えば、大切なのは「どこに所属しているのか」ではなく、「どんなプレーを見せているのか」だ。直近のシーズンはマンチェスター・ユナイテッドで無得点に終わっていた香川真司や、1月のACミラン移籍後は苦闘が続いた本田圭佑は、その時点で難しい立場に陥っていたと言える。

試合に出られないなかでも身に付くこと、学べることはあるが、実際に試合に出ている選手が相手になれば、どちらの自信が大きいのかは比較するまでもないだろう。

「普段から厳しい眼で見てもらうことが、日本サッカーの成長につながる」

グループステージの3試合を終えて、キャプテンの長谷部誠がこんな話をしている。

日本の敗因が複合的なものだったとすれば、ブラジルで味わった苦汁は代表チームだけのものではない。日本サッカーの発展を願うすべて人々が、それぞれの立場でブラジルW杯への過程を見直さなければならない。代表チームの戦いは、代表選手の価値観は、その国のサッカーに対する思いを映し出すものだからである。


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