さらなる飛躍につながる「リスタート」と考えるべき
田中選手の黒星は2012年8月19日の西武戦以来、43試合、640日ぶりだ。
記録はいつかは途切れるものとはいえ、力を出し切れなかった88球に、田中は唇を噛みしめた。「悔しいです。思うような投球ができなかったのは、自分の未熟なところ。打者の打ちやすい高さ、コースに(ボールが)集まっていた。相手どうこうより、自分が悪すぎた」。
今季ワーストの4失点。自責点は3で9戦連続のクオリティースタート“6回以上自責点3以内”はマークした「メジャー1位」が、納得はできなかった。
悪条件も重なった。無失点で迎えた三回裏、突如として稲光と雷鳴が上空に轟いた。雷雨警報が的中し、雨脚が激しさを増し、マウンドをぬかるみにした。田中のスプリットは落ちず、速球は高めに浮く。そこを突いたのがカブス打線だった。
試合前までの勝率.357(15勝27敗)はメジャー30球団中最低で、チーム打率.234は同27位。4月16日(同17日)の田中との初対決では、バント安打の2安打のみの8回無得点に封じられた。このリベンジを果たすため、ビデオで徹底分析。「あれだけタフな相手。スプリットが厄介だから、高めに浮いてきた球を積極的に打つ」(レンテリア監督)ことに徹し、追い込まれるまでは低めを捨て、ベルトより高めに来れば早いカウントでも振る作戦に出た。これが功を奏して、田中から4点を奪う。
2二塁打を含む3安打したバルブエナが「高めを振ることを心がけた」と言えば、三回に先制打を放ったボニファシオは「スプリットは意識せず、とにかく高めを積極的に振った」とニヤリ。2安打1打点のベーカーは「高めだけに絞ったが、うまく対応できた。嫌というほどビデオを見た甲斐があった。球界のメイウェザー(46戦46勝の最強ボクサー)に勝ったようなもの」と言って、笑顔を見せた。田中争奪戦に敗れたカ軍にすれば、“振られた相手”に一矢を報いた格好だった。
田中の「不敗神話」は崩れたが、この時期に、しかも相手が交流戦でのカブスで良かったと思った方がいい。連勝を続けていると、日増しに余分なプレッシャーが大きくなる。田中が意識する、しないに関係なく、地元、いや、全米中のメディアが必要以上な扱いをして注目度もアップしていく。もし、キーとなるような肝心な試合で連勝が止まる事態になれば、注目度が大きいだけに、その“反動”も大きくなる。すると批判される必要がないところも批判されかねないのだ。
「次の試合が大事だと思うので、次の登板までしっかり準備したい」と田中。この時期に“リスタート”できたことは、さらなる飛躍につながりそうな予感がする。