対戦チームの監督も賛辞を送る、見事なデビュー
初登板、初勝利を飾った田中投手。3回まで不安定だった投球を一変させ、7回を97球、無四球で終えた。
先発でデビューして初登板勝利を挙げた日本選手は、2012年のダルビッシュ有(レンジャーズ)以来9人目。この白星は田中にとって日米通算100勝目となった。
立ち上がりはさすがに緊張していた。メジャー初登板が敵地での開幕戦。異様な雰囲気の中、全米中、いや、日本を含めた世界中から注目を浴びる。「序盤は試合に入り切れていないという自分がいました」と田中も認めた。一回、元ヤンキースのカブレラに先頭打者本塁打された。いきなりの洗礼は、スプリットが落ちず、高目に浮いたものを狙われたものだった。二回は一死走者なしから連打を許し、味方の失策も重なって満塁のピンチからディアスに左前タイムリーを打たれた。2回で3失点。「ちょっとこれはまずいな」と感じた田中は、三回を終わって驚くべき修正能力を発揮する。
三回までは変化球主体の組み立てだった。いろいろな球種を持っていることをわからせる意味合いもあったが、その変化球をブルージェイズ打線に狙われた。そのため、変化球の制球も微妙にズレていった。そこでマキャン捕手と話し合い、フォーシームはもちろん、カットボール、ツーシームなどストレート系に組立てを修正。「早いカウントからのスプリットも多く、それがボールになっていた。真っすぐ系をドンドン使うようにして、ストライクがとれたのが大きい」という。三回までの58球のうちでストレート系はたったの19球しかなかったが、四回以降七回までの39球では25球がストレート系。この修正が初勝利を手繰り寄せた。
田中が修正したのは配球だけではない。「回が進むにつれてテンポを(意識的に)上げていった」という。守備のリズム、テンポが悪ければ、攻撃の流れも悪くなることを知っているエースならではの感覚。この配球とリズム、テンポの修正は、誰に言われるのではなく、自分でそうしているところにメジャーでの成功が見えてくる。
7回6安打3失点(自責2)。四回から七回の4イニングを最小の打者12人で終えた。特筆すべきは、三回まで不安定だった投球を一変させ、7回を97球、無四球で終えたことである。思わずイチローが「7回、100球以内はすごい」とうなったが、こうなると絶賛、称賛の嵐が巻き起こる。
「(97球、無四球は)すごく印象に残った。あれだけ注目され、トロント開幕戦の異常な雰囲気の中でミスから立ち直ったし、熟練の投手になるサインだね」と捕手出身らしいコメントで田中を称えたのはジラルディ監督。敵将のブ軍ギボンズ監督も「(田中は)序盤にいくつかのミスを犯し、我々はそれをとらえることができたが、それをよく立て直した。間違いなく本物だと思う」と賛辞を送った。
球団公式サイトが「簡単に屈しないタナカ」の見出しで大きく扱ったのを始めに、辛口で鳴るニューヨークメディアも破格の扱いをして田中の投球を称えた。ニューヨーク・タイムズ紙はスポーツ面の1面で「困難を克服してテンポよく投球できる」と評価。ニューヨーク・デーリーニュース紙も「しびれるスタート」との見出しで1面に取り上げ、ニューヨーク・ポスト紙は1面と裏面にと大々的に扱った。また、「マサヒロ・タナカはプロ魂を示した」としたESPNを始め、FOXスポーツ、CBSスポーツ、スポーツイラストレーテッドなどの主要スポーツサイトもトップで伝え、称賛を惜しまなかった。
「うれしいのはもちろんですけど、ホッとしましたね。一番初めの皆さんの印象が大事だから」
初登板でいきなりニューヨークのファンとメディアの心をつかんだ田中は、松井秀喜氏のようにニューヨークに愛される選手への第一歩を大きく踏み出した。