男のこだわりグッズ/文房具・小道具

使うための万年筆を考えるとマニアックになる面白さ

趣味的なものとしてだけでなく、日常的な筆記具として万年筆を使ってもらおうというコンセプトの万年筆が、最近、少しずつ増えています。その中で、初心者向きに設計しつつ、何とペン先が交換できるというマニアックな側面も持った万年筆のセットが発売されました。その面白さを解説します。

納富 廉邦

執筆者:納富 廉邦

男のこだわりグッズガイド

万年筆を現役の筆記具に戻すために

マイファースト01

セーラー万年筆「マイファースト」2100円(税込) クリップ、リングの色は写真の赤の他、青、黒がある。

現在、万年筆は大きく二つのジャンルに分かれていると思います。ひとつは、趣味的な筆記具として、コレクションの対象だったり、特別な用途にのみ限定して使われたりといった方向、もうひとつは、普通に筆記具として日常的に利用する方向。日本では前者の方向が主流というか、一般的でしょう。大人の趣味の筆記具のひとつだったり、話のタネだったり、書く際の手の気持ちよさだったり、素材やペン先へのこだわりだったり。それはそれで、ひとつの趣味として完成していて、とても魅力的です。

一方で、普通の筆記具のひとつとしての万年筆という方向も、少しずつ製品も増えて一般的になってきました。ペリカンの「ペリカーノ」シリーズや、ラミーの「abc」といった、ヨーロッパで子供用の筆記具として作られた万年筆(正確にはペン先が金ではないので「万年筆」では無いのですが、ここでは、万年筆の構造を持った筆記具を総称して万年筆と呼ぶ事にします)は、もう普段使いの筆記具として日本でも定着しつつあります。また、安価で扱いやすい万年筆を次々とリリースしていたパイロットが2013年に、より身近に使える万年筆として「kakuno」を発売。これが、子供用/初心者用/普段使い用の万年筆として、かなりの完成度を誇る名品で、このジャンルの決定版と言っても良い名作でした。
マイファースト02

万年筆本体は、樹脂製の軽いもの。シンプルなデザインでカジュアルに使える。

セーラー万年筆の「マイファースト」も、そういった、万年筆を身近な筆記具として使ってみては、というコンセプトの製品である事は間違いないのですが、それだけでは終わらないのが、この製品の面白い所です。製品名だけなら「kakuno」以上に初心者向けの製品なのですが、「kakuno」が子供をメインターゲットにしつつ大人も使えるという姿勢なのに比べ、「マイファースト」は、大人が初めて使う万年筆という位置付け。この差は、小さな所では、グリップが自然に正しい持ち方になるように作られている「kakuno」に対して、好きに持てるように作られている「マイファースト」といった所に現れていますし、大きい所では、「マイファースト」は、何とペン先が取り替えられるようになっているのです。これは、子供向きというよりも、むしろ、文房具は大好きだけど万年筆はあまり使った事がない、といった大人を対象にしているように見えます。

初心者向きながらペン先が交換できる機能を持つ

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ケースの中に、軸とキャップ、カートリッジインク3色(各1本)、ペン先2種が収まっている。

「マイファースト」は、ペンの軸とキャップがひとつずつ、ペン先が2つ、カートリッジインクが3色(各1本ずつ)、使用説明書がケースに入ったセットとして販売されています。この、万年筆のパーツセットのようなケースが、既にマニア心をそそります。注意すべきは、ここでそそられるマニア心が、決して万年筆マニアの心ではなく、文房具や工作、小物などのマニア心だということ。万年筆は、万年筆マニア向けでなければ、雑貨好き向け、というのが従来の基本的な流れだったため、実は、こういう方向での「マニアック」な製品はパイロットの「キャップレス」くらいしか無かったのです。そして「キャップレス」もそうですが、文房具などに対してのマニアックな方向は、実用性と矛盾しません。むしろ、実用的だと思うからこそ食いつく、実用系のマニア向けなのです。
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ペン先は、標準の中細字タイプと、筆文字なども書ける特殊ペン先の2種類。特殊ペン先の曲がった形状は慣れると自在に太さをコントロールできる。

さらに凄い事に、2つ入っているペン先、ひとつは標準の「中細(MF)」タイプで、これはまあ、普通に使うのに丁度いい、細過ぎないけれど、十分細い、ボールペン感覚で使えるものです。そして、もうひとつは、筆文字など、ペン先の角度で描線の太さを変えて書ける特殊な形状のものです。これ、セーラー万年筆の名作「ふでdeまんねん」に使われている、ペン先が曲がった(ペン先角度55度くらい)特殊なものに近く、寝せて書けば太い文字が、立てて書けば細い文字が書けるようになっています。このペン先は、確かに一般的な万年筆で使われるモノではありません。いわゆる「万年筆で書いた文字」にもなりません。しかし、この構造のペン先は、万年筆という筆記具の構造なくしては生まれないものでもあります。つまり、とても「万年筆的」なペン先でもあるのです。
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外したペン先を水に浸けておけば、インク詰まりも簡単に解消する。

そして、ペン先が外せるというのは、インクを詰まらせがちな初心者や、つい万年筆を放置しがちな現在の仕事環境の中にあって、実は、とても頼もしいものです。例え、長い間放置してインクが固まってしまっても、ペン先を外して、それをそのまま水を張ったコップに入れて一晩置けば、キレイなペン先に戻ります。色が違うインクを使いたくなった場合でも同様です。ペン先が交換式というマニアックな仕様が、実は、初心者向けであり、現代人向けなのです。ガイド納富がペリカンの万年筆を愛用している理由のひとつも、このペン先が簡単に外せる機能にあります。この機能、一見マニアックですが、初心者向きでもあるのです。

ガイド納富の「こだわりチェック」

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中細字のペン先と青インクの組み合わせで書いてみた。万年筆らしい書き味をきちんと味わえる。

元々、万年筆のペン先が金なのは、柔らかさと腐蝕しにくさから選ばれているわけで、スチールのペン先が極端に劣るという事はありません。実際、製作工程は同じですし、安価な分、安心して使えるという利点もあります。この「マイファースト」も、スチールのペン先ながら、特に引っ掛かる事なくスムーズに筆記できます。特殊ペン先の独特な書き心地も、慣れると線の太さを自在にコントロールできて快適です。インクもカートリッジ以外にも、セーラーのコンバーターに対応しているので、ボトルインクを使用する事も可能です。
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特殊ペン先と黒インクの組み合わせで書いてみた。思いっきり太い文字から、小筆で書いたような文字まで、ペンの角度一つで書き分けられる。

多少、デザインには難があると言いますか、愛用するには、やや安っぽい軸なのですが、筆記具としての面白さに溢れたものですし、万年筆の入門編として使う分には、こういうチープなデザインの方が、カジュアルに使えて気も楽なのではないでしょうか。全体に軽いので、万年筆の筆圧をかけずに書くスタイルを身に付ければ、長時間の筆記にも疲れませんし、長文を書くにはボールペンより向いている場合もあります。特殊ペン先と、豊富な色数があるボトルインクを使って、画材として使うのも面白いでしょう。画材のひとつとして考えると、このシンプルなデザインも悪くないように思います。

<関連リンク>
セーラー万年筆「マイファースト」の公式サイトはこちら
「マイファースト」の購入はセーラーのオンラインショップから
コンバーターはこちらから購入できます
パイロット「kakunho」の公式サイトはこちら
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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