株式市場は今後も安定推移か?
米国経済の重要な指標の1つに失業率があります。FRBは当初、超低金利政策について、インフレ率が2.0%以上にならない限り失業率が6.5%以下になるまで続けるとしていました。このようにFRBの金融政策の大きな判断材料となっているのが失業率です。ではその失業率は現在どうなっているのかというと、米国の積極的な量的金融緩和政策による景気浮揚効果で2013年12月時点では既にFRBの一応のターゲットである前述の6.5%に迫る6.7%まで低下してきています。では、急激に現在行われている量的金融緩和政策(QE3)や超低金利政策が中止されるかというと、実際にはその心配はありません。だから米国株は史上高値更新を続けているのです。
たしかにFRBは2013年12月のFOMCにおいて、毎月の国債と住宅ローン債権の買い入れ額を現行の850億ドルから計100億ドル減らすという量的緩和策の縮小(テーパリング)を決定しています。
しかし、この縮小幅は予想よりも小幅なものでしたし、同時に金融市場の動揺を沈めるために、超低金利策を失業率が6.5%以下になってもインフレ率が2%下回る限り継続すると発表しているのです。
これによってテーパリングは開始されたものの、むしろFRBは優しい縮小プランを打ち出したという印象付けに成功し、市場にくすぶっていた「いつ、どれほどのテーパリングが始まるのか」という不透明感を払拭したのです。また規模は小さいとは言え、テーパリング開始に踏み切ったことで、背景にある強い景気の回復というメッセージを市場に与えたこともプラスとなりました。これによってテーパリングが発表された直後は米国株は下落したものの、すぐに上記のポジティブな理解へと傾き、大幅高となっています。
二面性を持つ失業率と雇用統計
では、今後失業率はどのようになっていき、それによって米国株はどうなるのでしょうか? 結論から書くと、当面は「良いようで悪いような」数字が発表され続け、それによってFRBは優しい形での金融緩和縮小策を継続し、株式市場も堅調な状況が続くと予想します。あまり雇用が良すぎればFRBの縮小が一気に進み、株にはマイナスですし、悪過ぎれば景気の底上げが感じられないとして、こちらもマイナスになるからです。このように予想する理由は、米国の雇用情勢は短期的な観点と長期的な観点では相違があることがあります。たしかに足もとの失業率は6.7%まで下がっていますが、長期的に考えれば、米国の雇用は強く回復しているとは言い切れません。たとえば、ここ3年の雇用状況(新規雇用者数)はほぼ横ばいで、年間合計の雇用者数は3年連続して同じ210万人台の増加にとどまっております。特に2013年に勢いを増したわけではないのです。
金融危機後の2008-2009年の2年間で合計▲860万人も雇用が減少しています。その後2010年に世界中で景気刺激策が実施されると、2010年の雇用者数は102万人の増加と反転しました。その後は前述のように3年間210万人前後の雇用増が続いているわけですが、これは金融危機後の2年間に減少した雇用数を、その後の4年間でまだ埋めきっていないことを示しています。
さらに一見順調に映る失業率ですが、これは失業者数が減っているというよりも、計算の分母に使われる、働く意思のある人の数が大幅に減っていることから来るものです。米国の労働参加率は金融危機以降延々と減り続け、現在62.8%という1978年以来の低水準となっています。このために失業率は低下を見せているのです。もしも現在の労働者の総数が2007年並だとすれば、失業率は一気に11.2%にまで跳ね上がり、金融危機以降ほとんど改善されていないことになります。
つまり、一見短期的には強い雇用状況が続いており、FRBもテーパリングを開始しています。しかしながら長期的に見ればそれほど良いものでも無いということがわかり、また2013年12月の雇用統計のように時折悪い数字も出てきます(2013年12月の雇用数は2013年11月に比べて+7万4,000人にとどまりました。事前のエコノミストによる予想の中央値は+20万人の増加であったので、サプライズを伴う低い水準であり、数値自体も過去約3年間で最も悪いものでした)。
このためFRBは一気にテーパリングを進めるというよりも、従来通り非常に慎重なスタンスで、緩和縮小の舵取りをとっていくことになるでしょう。当面このような「良いようで悪いような」二面性を持つ雇用の状況は、株式市場には現状維持という形で安定方向に作用すると思われます。
参考:グローバルグロースレポート
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