紀州雑賀衆の奮闘と戦国を一途に生きた人々の物語
『雑賀六字の城 ~信長を撃った男~』
■作者名おおのじゅんじ
■原作者名
津本陽
■連載雑誌
月刊コミック乱
■おすすめの理由
時代小説の大家・津本陽原作の小説を、時代漫画に心境著しいおおのじゅんじが漫画化。
この作品は、当初PHP出版の『コミック大河』に「雑賀六字の城」として掲載されていました。
しかし、『コミック大河』の休刊により、『コミック乱』に「~信長を撃った男~」の副題をつけて掲載されています。
ストーリーは、「天下布武」を目指す織田信長と石山本願寺の戦いの中で、本願寺に属する紀州雑賀衆の奮闘を描いたもの。
紀州雑賀衆は、戦国最強の鉄砲集団で、熱烈な一向門徒です。
主人公は、紀州雑賀荘の有力豪族である小谷玄意の息子・七郎丸。子供の時から慣れ親しんだ鉄砲の天才的な名手として描かれています。
主な登場人物は、七郎丸と彼にいつもそばに付き従う郎党の牛楠、父の玄意、兄の太郎右衛門、そして、七郎丸の母や姉、さらに七郎丸の許嫁のおみつ、鈴木孫一の娘・つるたち。
そうした登場人物たちが、織田信長という大敵と明日の命も保障されない極限状態の戦いの中でみせる悲しいまでの覚悟や愛情、深い人間関係がこの漫画の大きな魅力です。
初陣のころはまだ幼さが残った七郎丸が、信長の狙撃に成功して、出陣を繰り返すたびに武将として、人間として成長していきます。
原作では、そんな七郎丸や雑賀衆の鈴木孫一、土橋平治など、雑賀鉄砲集の活躍にワクワクしたものでした。
しかし、漫画では逆に戦争で引き起こされる、大切な人々の別れなど悲しい部分が際立っています。
一向門徒は、死ねば極楽に行けるとの教えにより、全く死を恐れずに敵軍に立ち向かうとされますが、「雑賀六字の城」では、家族との別れなどが切ないまでに描かれます。
特に、郎党の牛楠が、追い詰められた雑賀衆を救うため、自らを犠牲にし火薬庫に火をかけ、織田軍を押し返すシーンは印象的。
戦いで殺人を犯すことになんの罪を感じていなかった自分に七郎丸が人の道を教えてくれたこと、そして、残していく自分の息子が、そんな七郎丸のように育ってほしいと願いをかけて壮絶な最期を遂げます。
「雑賀六字の城~信長を撃った男~」は、戦国という時代に翻弄されながらも一途に生きた人々の心が伝わってくる作品です。