本田争奪戦はACミラン優位と見られるかもしれないが……
はっきりしているのは、本田をめぐるCSKAとミランの神経戦は、もうしばらく続くということだ
今回の交渉のポイントは、本田とCSKAの契約期間にある。両社の契約は今年12月いっぱいまでで、それ以前に本田を獲得したいクラブは、CSKAにお金を払わなければならない。これが移籍金というものである。
移籍金は所属元のクラブが設定するが、CSKAとミランの間には隔たりが生じている。CSKAの要求する金額を、ミランは「出せない」と言っているのだ。
ふたつ目のポイントは移籍期間だ。
シーズンの半分以上は自由に移籍できる日本のプロ野球と異なり、欧州各国のサッカーは決められた期間内にしか移籍できない。移籍期間と呼ばれるもので、タイミングは1シーズンに2回だ。前シーズン終了から同年8月31日までが1度目で、2度目が翌年1月1日から31日まである。
8月31日までに交渉がまとまらなければ、本田は契約満了までCSKAでプレーすることになる。セリエAは8月24日に開幕するが、そこから4カ月ほど我慢すれば、ミランは移籍金なしで本田を手に入れることができる。そのほかのクラブも獲得に名乗り出ることはできるが、本田はミラン行きを望んでいる。
現実を整理していくと、ミランが優位に見えるかもしれない。夏の獲得に必要な移籍金は用意できないが、他ならぬ本田は入団を希望している。来年1月まで待っても、彼は我々のクラブにやって来るだろう──ミランの関係者がそう考えても不思議ではない。
本田の移籍で、UEFAチャンピオンズリーグがネックになる
ミランにとってネックなのは、UEFA(ウェファ)チャンピオンズリーグである。欧州ナンバー1のクラブを決めるこの大会に、CSKAは出場することが決まっている。一方のミランも、8月下旬開催の予選プレーオフを制すれば、本選に出場できる。
ここで問題となるのが、同一シーズンに異なるクラブで出場できないというルールだ。
例えば、CSKAが本選のグループステージで敗退し、ミランは勝ち抜いたとする。もし本田がCSKAで出場していたら──残留することになれば、出場しないはずがない──ミランが勝ち上がっても彼は出場できない。
チャンピオンズリーグは9月開幕なので、夏の移籍を逃すと本田を戦力に含められなくなる。CSKAからすれば交渉を強気に進められる理由で、ミランにとっては移籍金を積み上げなければならない理由のひとつになる。
これまでのところ、CSKAは「移籍金で折り合えば、本田を送り出す」というスタンスだった。それだけはブレがなかったのだが、ミランとの交渉が停滞している間にチーム事情が変動した。
ロシアリーグは7月第2週に開幕しており、CSKAはシーズン前に攻撃的なミッドフィールダーを補強した。ブルガリア代表とスイス代表の若手ミッドフィールダーを同時に迎え入れ、本田の流出に備えたのである。
ところが、本田と並ぶ攻撃の主軸ヴァグネル・ラブが、7月24日に中国リーグのクラブへ移籍することが決まったのだ。ブラジル代表経験を持つこの選手は、トップ下と呼ばれるポジションを務めてきた。彼が不在の際は、本田が最有力候補である。
ロシア代表のジャゴエフを起用するなどのやりくりは可能だが、ヴァグネル・ラブだけでなく本田まで抜けるようなことがあれば、攻撃の破壊力は大幅にスケールダウンする。そのうえ、新加入のブルガリア代表をはじめとして、攻撃的なミッドフィールダーにケガ人が少なくないのだ。
ロシアリーグとチャンピオンズリーグのふたつを同時に戦う9月以降は、スケジュールが過密になる。保有戦力は多いほうがベターで、本田ならなおさら必要になってくる。
ヴァグネル・ラブの放出で移籍金を手にしただけに、CSKAが本田の移籍金を減額することもあり得ない話ではない。ただ、保有戦力の充実度を考えると、いますぐ手放すことが惜しいのは間違いない。
欧州サッカーの夏の移籍は、期限最終日の8月31日に駆け込みで決まることが少なくない。また、チャンピオンズリーグの選手登録が締め切られる8月13日も、両クラブにとって決断のタイミングとなり得る。現時点ではっきりしているのは、本田をめぐるCSKAとミランの神経戦は、もうしばらく続くということだ。