3ドアの魅力はまったく削がれていない
A1の魅力とは何か……。それは、全長4m以下という時代にあったエココンシャスなサイズ感覚に、“アウディ”という今、最も勢いのあるクルマブランドのイメージが結びついた、ファッショナブルでモダン、クリーンでスマートな存在感にこそあった。
だから、3ドアでもいいか、とボクは思っていたのだけれど、世間的には違ったらしい。特に、ヨーロッパでも旧東欧エリアやラテン語圏で、それでも5ドアを望む声が大きかったという。
いくら便利で実用的な5ドアモデルの追加とはいえ、3ドアで訴求したコンセプトがそのサイズに因ったものである以上、それを崩してもらっては元も子もないだろう、と、5ドア登場以前は心配していたのだが、実際には、両ボディスタイルとも同時に開発されていたというから、杞憂に過ぎなかったというわけだ。
果たして、5ドアのA1スポーツバックは、3ドアとほとんど変わらないスリーサイズで登場した。先に日本上陸している3ドア版と全く同じ、122ps版の1.4リッター直噴ターボエンジンと7速ダブルクラッチシステムの組み合わせが搭載されるなど、メカニズム的にも変わらない。
全長とホイールベースは全く同じ、である。要するに、前ドアを短くして後ドアを付け加えた。数値上、全高がわずかに高くなっている(本国モデルは1442mm)のは、スタイリッシュなラインを崩さないようにルーフを延ばして後席の居住性を確保したため、だったし、全幅増にいたってはフロントドアノブの位置が移動したことによるもので、事実上、ドライバーにとってのサイズ感覚は3ドアと変わらない。
エッジの利いたキャラクターラインが車体を上下に分割するかのように走り、灯火類にもエアロダイナミクスの一翼を担わせるという、3ドアのデザイン・ハイライトは、5ドアでももちろん健在である。3ドアと並べて比べてみれば、ディテールの違いは明白だけれども、5ドア単独で見るぶんには、なるほどA1以外の何物にも見えない。3ドアのデザイン上の魅力は、まったくもって、削がれていないと思う。
インテリアも、まったく同じ。ダッシュボードまわりはシンプルでスポーティ、運転席に座って前を向く限り、3ドアと変わらぬ景色である。否、後を向いてもさほど変わらないか。
ちなみに後席の居住性はどうだろう。身長170cmが座って、確かに頭上には少し余裕ができたかなあと思えるものの、足もとのスペースは3ドアと変わらず、なので、必要最小限レベルだと思ったほうがいい。
この手のクルマが出てくると、ついつい、ファッショナブルなヤングファミリィ向け、などという手あかのついた表現が使われがちだけれども、本当のところをいうと、やはりコイツはパーソナルギアなのだった。3ドアに比べて前ドアが短くなって乗り降りもラク、荷物の出し入れも便利になった、一人乗り+αのパーソナルカーである。ファミリーユースには、やはりA3以上をオススメしておきたい。