具体的にどうやってお金を貯める・増やす?
――山崎さんは、よくオールアバウトでインデックス運用(TOPIXなど指標に連動する運用)について書いていますよね。「それでもインデックス運用を支持する私の理由」山崎:僕は確定拠出年金の投資教育をする立場で考えると、普通の人は、時間もかけたくないし、その後チェックすることもないし、能力もないんだから、そうするとベターな選択肢をとるべきです。だから、インデックスでいいんじゃないですか、っていう話です。
野尻:全く同感。私はインデックスがいいとか悪いとかではなくて、100%のリスクを取りにいかなければいい、と思っているので。100%のリスクというのは何もしないことだと思うから、それ以外のことで、本人が納得できるリスクの大きさであれば、何の問題もない。ただ、「いい方法は何ですか?」と聞かれたら、シンプルなもの、なるべく中身の分かりやすいものを買うのが一番のルールだと思っています。
95歳まで長生きしても、ニコニコしていられるようにしたいですね!
――自ら進んでリスクを取りに行かないために、私はいつもファイナンシャルゴールを設定しましょうとお話をしています。最初のゴールは、60歳の定年退職時。それまでに、ある程度資産が貯まっていれば、老後は安定運用でもいけます。でももし目標に届かないのであれば、働く期間か運用する期間を延ばした方がいいです。最後のゴールは亡くなった時。東京都で直葬するだけでも30万円かかりますから、生きているうちにお金がなくなるのは困ります。
野尻:私も同じように話をしています。ゴールを95歳に設定します。95歳で0円、シンプルなゴールでしょ。75歳からは95歳まで定額で生活すると想定します。毎月10万円、もしくは15万円引き出すと仮定すれば、総額は簡単に計算できます。毎月10万円なら10万円?12ヶ月?20年で2400万円いる。15万円なら3600万円です。後はそのゴールに到達するために、75歳までは運用しながら、お金を使う計画を立てる。
――野尻さんの提唱する、現役時代は、定額でお金を運用しながら積み立て、老後になったら75歳まで運用しながら『定率引き出し』するという考え方がおもしろいですね。
野尻:そう。それは、現役時代に、定額積み立てをすると、マーケットが下がってるときはたくさん買えて、上がってるときは少ししか買えないというのの引き出しバージョンなんですよ。
――逆ドルコスト平均法みたいな、発想ですね。
野尻:毎年いくら引き出すという額を、定額にしていると、マーケットが悪くなったときに引出額が相対的に大きくなってしまう。これが退職直後に起こると資産が目減りしてしまい、お金が減るのが早いわけです。運用対象のリスクとリターンを予想することさえ難しいのに、その毎年の収益率の並び方まで予測するなんて絶対無理だから。どうしたらいいかというと、資産残高に対する一定率で引き出すというルールを決める。
――定率と言うことは、下がってるときは、資産残高も減っているから、引き出すお金を少なくしてつましい生活を送り、運用が上手くいっているときは、ちょっとレストランに行けるという考え方なんですね。
野尻:そうです。60歳の退職時に3000万円あったら、どうやって15年後、75歳まで運用したらいいの?というと、引き出しのほうを先に考えましょうということです。3000万円で引き出し率4%だと、スタートの時点では3000万円?0.04で、年間120万円。この額は資産の変動に応じて動ごくことになります。資産が増えれば引き出し額は大きくなりますし、運用が悪くて資産が減ればその分引き出し額は小さくなります。運用は無茶しないで年率3%くらいにしておけば、引き出し率との差で年間1%ずつ金融資産が減っていく計算になります。そうすると、退職時に3000万円あったお金は、15年後、2580万円になりますね。これだったら、先ほどの話だと、2400万円、毎月10万円ずつ残りますね。もちろん手数料や税金は考慮していませんが。
毎月10万円ずつを60歳から95歳まで使い続けるとすれば、何も運用しなかったら、60歳時点で4200万円なければいけません。4200万円を、30代、40代がまったく資産のない段階から作りに行こうとしたら、ハイリスクで行かなきゃいけない。しかし運用する期間を60歳までじゃなくて、75歳まで想定すれば、山はそんなに高くなくてすみます。そうすれば、無茶をしないでも資産運用ができますよね。
――4200万円は難しいけど、運用しながら3000万円なら目指せない額ではないですね。
野尻:貯金0でも、年率3%で運用すると30歳で資産0円でも、30代を毎月4万円、40代で5万円、50代で6万円と少しずつ積み立て額を増やすステップアップ積み立てをすればおよそ2800万円になります。
――毎月4万円なら夫婦で2万円ずつ。働いているカップルなら、無理なくできますね。95歳まで生きられそうな予感です。山崎さんは、いかがですか?
山崎:マニュアルとかルールとかってあまりないから、FXだって、株だって、投資信託だって、投資金額だけ限定して後は好きなことやればいいと思います。株も検索すれば、10万円以下で買える銘柄なんていっぱいあるじゃないですか。FXだって、レバレッジ低くしてやっても、10万だったらあっという間に飛ぶけど、所詮損するのは10万円なんだから損失は限定される。また別の投資にチャレンジしていけばいい。運用の投資方針はいろいろ考えられるけど、最後に勝っても負けても自分が納得できるポートフォリオかどうかはすごく大事にしてほしいと思います。特に「負けても」納得できるかどうか。
雑誌の推奨ポートフォリオや、銘柄を見て、そのままやって当たったらそれは自分の手柄で、失敗したら推奨した誰々のせいだ、というのはダメです。投資家として全然成長してないし、経験としても役に立たないと思います。
――自分の将来だから、自分で考えて、このままで大丈夫だと思ったら、そのままのマネープランで幸せな人生が送れるでしょう。でも、もし「やばい!なんとかしなくちゃ!」と思ったら、自分で一日も早く行動を起こすことですね。トライ&エラーも大事。今日は、お二人ともありがとうございました。
野尻 山崎:ありがとうございました。
<老後難民にならないための、今日のおさらい>
・実は老後は、働いている期間と同じくらい長い
・ねんきん定期便を調べよう
・お金が足りなければ、運用しよう
・まとまったお金が貯まってから運用ではなく、貯まる前からコツコツ運用
・いろいろ試してみよう
・75歳まで使いながら運用すると、貯めるお金は少なくてすむ
野尻 哲史(のじり さとし)
フィデリティ退職・投資教育研究所所長
国内外の証券会社調査部を経て、2007年より現職。10年以上にわたり、個人投資家の資産運用に関するアドバイスを行う。最近では各種アンケート調査をもとに投資家動向を分析し、資産運用に関する啓蒙活動を行っている。著書『老後難民 50代夫婦の生き残り術』『退職金は何もしないと消えていく』、『なぜ女性は老後資金を準備できないか』、(以上、講談社+α新書)、『1万人アンケートでわかった40代のサイフ』(宝島社)。
山崎俊輔(やまさき しゅんすけ)
オールアバウト「企業年金・401K」「賢く生きる3分間マネーハック」ガイド。FP、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て2001年に独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当などを歴任。著書「お金の知恵は45歳までに身につけなさい」