結果さえ出せば真の「アメリカン・ドリーム」も
年俸ではなく、メジャー移籍にこだわった岩隈
カメラのフラッシュを浴びた岩隈は、はにかんだ笑顔を何度も浮かべた。マ軍と1年契約を結んだが、準備が間に合わず、“お約束”のユニホームも帽子もない。だが、30歳ルーキーの気持ちの高ぶりは最高潮に達した。その証拠に、日本の報道陣向けの会見だったにもかかわらず、「ハイ、マイネーム、イズ、ヒサシ・イワクマ」と決して流暢ではない英語で話し出し、「プリーズ、コールミー、KUMA(クマ)」と続けた。
「やってやろうという強い気持ち。(開幕投手を)目標に入れています。もちろん、今年は日本で開幕するので、まずそこでアピールできるように、ひとつの目標としてやっていきたいです」約30分に及んだ会見の中で、特に力を込めたのは、3月28、29日に東京ドームで組まれているアスレチックスとの日本開幕戦先発についてだ。大リーグの歴史上、開幕戦で先発した日本人投手は過去3人(野茂、松坂、黒田)いるが、新人となれば初めてとなる。マ軍にはフェリックス・ヘルナンデス(25)、マイケル・ペネタ(22)という好投手もいるが、慣れない日本での開幕戦登板を回避する可能性もあり、岩隈の開幕投手は決して夢ではない。相手が昨年オフに入札制度での交渉が決裂したア軍ともなれば、なおさら力が入る。
今回、岩隈のマ軍入団で最も意義のあったことは、「お金じゃない」という言葉だ。しかも、複数年ではなく1年契約という条件。近年、日本人トップクラスの投手の契約を見てみると、伊良部(故人)がヤンキースと4年1250万ドル、石井がドジャースと4年1220万ドル、松坂がレッドソックスと6年5200万ドル、井川がヤンキースと5年2000万ドル、黒田がドジャースと3年3530万ドル、上原がオリオールズと2年1000万ドル、川上がブレーブスと3年2300万ドルである。それに比べ、岩隈の1年150万ドルはあまりにも低い評価と言わざるを得ない。もちろん、その時の景気や球団の経営状態にもよるが、それにしても、である。
しかしながら、メジャーリーグでは、「お金じゃない」という気持ちが、ハングリー精神を掻き立て、結局、お金に結び付く。もし、実際にメジャーのマウンドに立ち、クオリティースタート(6回3失点以内)を続け、1年間先発ローテーションを守ることができたら(200投球回が理想)、自チームはもちろん、他の29球団が放っておかない。そうすると、高額での複数年契約が待ち受けることになる。つまり、どんな低い条件でも、まずはメジャーのマウンドに立つことが最優先で、あとは自分の頑張り次第で夢を現実のものにできるのが、メジャーリーグの世界なのだ。これも「アメリカン・ドリーム」の1つといえるだろう。
岩隈は先発で投げられるチームと契約することができた。そのチームにはイチローがいて、ソフトバンクからFAでマイナー契約した川崎もいる。地元シアトルは昨年末に家族と訪れ、大いに気に入った。そう、あとは投げるだけ。「お金じゃない」岩隈に、この時代だからこそ、期待したい。