甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺、「バセドウ氏病」「橋本病」などの病気も
甲状腺。あまり聞き慣れない臓器ですが、いわゆる「のどぼとけ」の下に位置しています。 体表から触れることも可能です
甲状腺は、胃腸などの他の臓器に比べると聞き慣れない名前の臓器かもしれません。甲状腺とは、私たちののど元、通称「のどぼとけ」といわれる骨(甲状軟骨)を下から支え、包み込むようにある臓器です。
甲状腺からは「甲状腺ホルモン」が分泌されており、呼吸・循環の調節をしています。甲状腺ホルモンの分泌が多くなる状態を「甲状腺機能亢進」、少なくなる状態を「甲状腺機能低下」と呼びます。前者の代表的なものが「バセドウ氏病」、後者の代表が「橋本病」ですが、これらの病名はご存じの方も多いのではないでしょうか。
バセドウ氏病や橋本病ほど知られてはいませんが、この甲状腺にも「がん」が発生することがあります。
30~40代の女性にやや多い「甲状腺がん」の特徴・傾向
2018年の国立がん研究センターの統計によると、甲状腺がんに罹患する確率は、男性で0.6%、女性で1.7%と報告されています。1年間に10万人あたり何人がかかるかを表す指標を「粗罹患率」といいますが、甲状腺がんの粗罹患率は、男性で7.8、女性で21.3です。
たとえば、胃がんの粗罹患率は、男性で128.5、女性で56.6なので、甲状腺がんの少なさとともに、女性がかかりやすいがんということがおわかりいただけると思います。
男女あわせての年齢で見ると、50代以上でかかりやすいのですが、女性の場合は30~40代という比較的若い年齢の方が多い一方で、60代を超えた場合には男性の方に多いという統計結果が出ています。
数としては多くはないものの、30~40代の女性にとっては、乳がん・子宮がんとともに気をつけておくべきがんの一つといえるでしょう。
甲状腺がん初期症状のセルフチェック法・ポイント
甲状腺にがんができても、甲状腺ホルモンの数値は正常であることも多く、特徴的、典型的な症状があるわけではありません。ただ、乳がん発見につながる乳腺の触診と同様、甲状腺は体表から触れる組織ですので、甲状腺がんは当初のど元のしこりとして触知することができます。また、乳腺と違って、基本的には外から見える(特に自分自身よりも他人からよく見える)臓器なので、家族や友人などから、のど元のふくらみやしこりを指摘されて、気がつく人も多いです。
冒頭のバセドウ氏病や橋本病では、甲状腺全体が左右対称に腫れることが多い一方、甲状腺がんの場合には局所的に、もしくは左右非対称に腫れてくることが多いのも特徴。ご自身の服装を鏡でチェックした時に気がついたり、自分でふと触ってしこりに気がついたりするケースも少なくありません。
また、甲状腺の近くには、声を出す声帯を動かす神経である、反回神経が通っています。甲状腺がんによるしこりがこの神経を圧迫すると声帯がきちんと動かなくなり、声がかれてしまう「嗄声(させい)」の症状が出ることがあります。
健康診断では、頸部を触診して甲状腺の腫れやしこりがないかどうかをチェックします。
甲状腺がんが進行した場合、血痰や咳、声枯れなども症状も
甲状腺がんが進行すると、周辺の臓器に浸潤していきます。決して多くはありませんが、甲状腺に隣接する気管を巻き込んでいくと、痰に血が混じったり咳が続いたりすることがあります。また、気管の裏には食道がありますので、甲状腺がんの進行によっては、食べ物が飲み込みにくくなる「嚥下困難(えんげこんなん)」の症状が出ることがあります。さらに、極めて稀ではありますが気管が細くなって呼吸困難になることもあります。
甲状腺がんも他のがんと同様、早期発見、早期治療が重要。定期的な健康診断を受けるとともに、のど元に妙なふくらみやしこりがないかを、定期的にチェックするようにこころがけましょう。
また、少し声の調子が悪く、風邪の影響が長引いているのかなと思っているケースの中には、甲状腺による神経の圧迫が隠れていることがあります。
あまりにも声枯れの期間が長い場合には、念のためお近くの内科、もしくは耳鼻科の診察を受けてみることも大切です。
■参考
- 最新がん統計(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター・がん情報サービス)