最新のスーパーカー、さもありなん!
3月のジュネーブショーでワールドプレミアされたのち、最初の国際試乗会は5月、ローマ近郊のバレルンガサーキットにて催された。サーキットアタックオンリーの、最近の高性能車試乗会にはありがちな、試乗の機会。まずはそのパフォーマンスを存分に、そして合法的に味わいましょう、というわけだ。ピットレーンには色とりどりのLP700が並べられ……、とはならなかった。見渡す限りの白と黒、ときおりオレンジ。黒はまだしも、スーパーカーの白人気だなんて日本の話だけかと思っていたら、どうやら北米や新興市場のみならず、欧州でもこのところ人気を博しているらしい。
個人的には、鮮やかな青や赤、黄といった、いかにもスーパーカーらしい派手な色の個体も見てみたかったのだが……。白いLP700なんてこれから飽きるほど日本で見ることができるというのに。
国際試乗会に使われた個体がそのまま各国市場のデモカーになるというのが慣しのランボルギーニだから、各市場の“欲しい色”がそのままピットレーン上に展示されたというわけだ。
トランスミッションは7速セミATのISR(インディペンデント・シフティング・ロッド)を搭載。最速のシフト時間は0.05秒を達成している。パワーウェイトレシオは2.25kg/psで、0-100km/h加速は2.9秒、最高速は350km/hとなる
驚くべき身体性能の高さ、である。まるでキャビンだけがドライバーの意のままに、自由自在に動いてみせている、といった感覚。最近触ったクルマのなかでは、マクラーレンMP4-12Cが最も近い乗り味だ。ランボルギーニはおろか、フェラーリなど既存のスーパーカーにはなかった感触。強いてあげれば、エンツォフェラーリ以来の衝撃。そう、あのクルマもCFRPシャシーにフォーミュラーカーのようなアシ回りだったっけ。
とにかく乗りやすい。最初はコースを思い出すため(ガヤルドデビューの地もバレルンガだった)、オートマチックモードで先導車についていったのだが、7速ISRミッションが小気味よく、不似合いにも省燃費なマナーで、シフトアップしていく。強く踏み込まないかぎり、例の嫌味なしゃくりもない。
ハーフスロットルで回転を上げていくと、まるでモーターのように回っていく。確かに低い位置にある重心に向けて、一点収束していくような、タオルをギュッと絞るような、そんな感覚だ。クルマはとても軽く、ことによると運転していて、ガヤルドより小さく思えてしまうほど。
人を含むすべての車両構成要素がカーボンモノコックキャビンに直付けされているようで、それがクルマの輪郭(ノーズやフェンダーの存在、車両感覚)を忘れさせ、強力な一体感とあいまって、サイズそのものを小さく感じさせるのだった。
このあたりでもう、クルマに対する絶大な信頼感が芽生えていた。このクルマならなんぼでもイケるぞ、という自信も、だ。
速度が上がってきたので、ISRシフトの変速モードを最もハードなコルサ(サーキットモード)してみた。コルサでは、パドルで操作するマニュアルモードの設定しかない。
いきなりガンとアクセルペダルを踏み込んだ。シャーンといっきに回転計の針が駆けあがる。すかさず、シフトアップ。
ガッツーン!!
思わずぎゃっと叫んでしまった。確かにシフトアップ時間が短い。けれども、ダイレクトに過ぎる。グォー・ガツン、グォー・ガツンの繰り返しで身体を揺らすショックも尋常ではなく、そのたびに内臓が捩れるようだ。ランチのパスタが吹き出そう。しばらくコルサで試してみたものの、なかなか身体が慣れてこない。まるで、ドグミッションのレーシングカーのよう。これじゃ、高回転域でサウンドを楽しんでみる余裕さえなさそうだ。
1周ももたず、今度はスポーツモードに。結論から言うと、これがイチバン良かった。変速時間は十分に短いし、ダイレクト感もほどよくしっかり。従来モデルにおけるコルサモードに相当すると思われる。
しばらくスポーツ×オートでサーキット走行を楽しんだ。このフラッグシップモデルは、実は曲がることも大変得意。変速に気をとられることなく、ステアリングワークに集中してみるのも一興というわけである。
タイトベントでは、新しい電子制御4WDが積極的かつきめ細やかなコントロールをみせ、よほど上手に荷重を移動しないと、オーバーの姿勢を作り出す前に、前輪へとトルクが素早く回されて、なんのことはない、安定志向の走りとなってしまう。もちろん、制御オフしなければ、の話だが(700psでそれを試すのは勇気がいります)。そういう意味では、もう少しスポーティな演出があっても良かったのかも。このあたり、2駆とはいえマクラーレンMP4-12Cの方が、シロウトを“きゃっきゃっ”と喜ばせる演出力に長けていた。
とっても気持ちよかったのが、中高速コーナーを駆けるときだった。特に200km/h手前で抜ける高速コーナーが最高だ。前アシの手応えは決して薄れず、後アシは常に余裕を持って懐深く力を溜め込む。腰の入った姿勢がたまらなく心地いい。スピードメーターをみてびっくりしてしまうほど、安定している(見る余裕があるのも凄い)。11度まで上がるリアスポイラー、プッシュロッド式のアシ、強靭なCFRPキャビン、そしてよくできた電子制御。最新のスーパーカー、さもありなん!
どんどんラップタイムが縮んでいく。その間、スリルとはほぼ無縁だ。高回転域で突き刺さるような、これまでとは全く異なる、雑味のない轟音を楽しみながら、スポーツ×マニュアルで駆ってみる。なるほどこのクルマもまた、サーキットの横に住みたくなるクルマだった。