もしも、他人から「クサイ!」と言われたら……? 何も手に付かないほど、落ち込んでも不思議ではありませんが、自己臭症では、相手のちょっとした仕草にも、敏感に反応してしまいます
もっとも、「クサイ!」と言われたとしても、それは、相手の感覚的な問題。決して、「あなたの臭いは、0から10までのにおいスケールで、9.5に相当するので、苦情を言ったのです」というわけではありません。実際には他の人は全く気にならないレベルかもしれません。
ただ、自分の臭いは、長年、馴染んでいるせいか、自分では、なかなか気付かないもの。自分では臭わないと思っても、相手のちょっとした仕草から、自分は臭うのではないかと、不安になる場合もあるでしょう。場合によっては、「自分はクサイ!」と思い込んでしまい、いわゆる「自己臭症」を発症してしまうケースがあります。今回は、自己臭症を詳しく解説します。
自己臭症の特徴
自己臭症の特徴は、実際は、それほどではない自分の臭いを、他人が顔をそむけるほどクサイと、思い込んでしまうことです。自分の臭いの事が頭から離れなくなってしまい、もしも他人が他の理由で手で鼻を覆ったり、窓を開けたりすると、「自分がクサイからだ」と、解釈してしまいます。自己臭症は比較的、稀な疾患ではありますが、自己臭症になると臭いに対する悩みを誰にも打ち明けられずに抱え込んでしまうことが少なくないため、実際の患者数は把握されている以上に多い可能性があります。
自己臭症の症状
自己臭症では、以下のような症状が生じます。- 自分はクサイと思い込んでしまい、自分の臭いの事が頭から離れない
- 相手の仕草が、自分の臭いを避けるものではないかと、疑いやすくなる
- 自分の臭いを抑えようと、気になる部位を 一日に何度も洗い続けたり、下着をすぐに替える、消臭剤を過剰使用する……など、強迫的行為が顕著になる
- 気持ちが冴えず、日常の大切な事が手につかなくなってしまう
- 対人状況を避けるようになってしまう
自己臭症の治療法
自己臭症の治療は、「自分はクサイ!」という観念が不合理であるということを正しく理解すると共に、その観念から引き起こされる、対人状況での不安感や、臭いを抑えるための強迫的行為を軽減させることが大切です。そのために、心理療法と薬物療法が行われます。薬物療法で、どの治療薬が選択されるかは、個々人の病状によります。例えば、自分のにおいが気になるあまり、気分の落ち込みが強くなってしまっている場合は、抗うつ薬で治療していきます。また、臭いを抑えるための行為が強迫的になっている場合には、脳内神経伝達物質のセロトニンの作用するを調整する治療薬の中から、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などを使って治療していきます。
自己臭症になると、精神的な気のせいではなく、実際に自分は臭っているのだという思いこみが強くなるため、自力で精神科受診を思いつく患者さんはあまりいらっしゃいません。心の苦しみを誰にも相談できず、心の中に抱え込んでしまっていることが少なくなく、精神科(神経科)受診が、解決策であることに気付きにくいものです。
自己臭症の症状が進んでしまうと、人前に出ることを恐れるあまり、家に引きこもってしまったり、死にたい気持ちが生じるほど、気持ちが落ち込んでしまう可能性もあります。もしも、自分の臭いに対して悩みがある場合、自己臭症の可能性があることにも、ぜひ目を向けていただき、その解決策には、精神科(神経科)受診があることを、ご留意ください。ご家族などの身近な方に同じような症状が見られる場合は、周りが受診を促してあげることも大切です。