『神聖喜劇』の衝撃
光文社文庫刊、全5巻。解説陣も豪華です。
1942年1月10から4月24日まで、対馬要塞の重砲聯隊に補充兵として入隊した東堂太郎が遭遇する出来事が中心になっている。戦争を描くのに、言葉の問題から入っていくところがおもしろい。
例えば、知らないことでも「知りません」というのを禁止されたり、弛緩を「しかん」ではなく「ちかん」と読めと命じられたり。軍隊の日常は、不条理そのもの。「大根の菜・軍事機密」問題に関するやりとりなど、思わず笑ってしまう場面も多々ある。
そのなかで、超人的な記憶力の持ち主である東堂が、教育係の上官に論争を仕掛ける。軍規の記述を根拠に冷静に、かつ執拗に、論破していく過程は痛快だ。
軍隊用語、方言、古今東西の文学作品の引用など、多彩な言葉を用いた文章。正確無比な描写。にじみだすユーモア。すごいという話は聞いていたけれど、百聞は一見にしかず、を実感した。