直木賞受賞第一作で仕事始め
名久井直子装幀の美しい本。講談社刊。
21歳の女の子と7歳の男の子の逃避行を描いたロードノベルで、さまざまな異文化との“混じり合い”が印象に残る。作中に出てくる昔ながらの商店街は、中島さんがライター時代、取材したことがある熊本の商店街がモデルだそう。
主人公の二人が抱えている事情は重いのだけれど、おばあさんが一人でやっている砂糖屋を繁盛させたり、倉庫を改装したホテルで豪遊したり、楽しい場面も多い。
メインストーリーの間にたくさん入っている挿話もとてもおもしろくて、一冊で何冊も本を読んだような満足感がある。特に好きなのは、16世紀に印刷機と一緒に伝来した〈イソポのハブラス〉の話。文体に愛嬌があるというか、〈おじゃる〉とか〈アホリカ〉とか、音読したら笑ってしまうような、かわいい響きの言葉が使われているのだ。
最後の挿話、〈砂糖屋の看板娘〉の清々しさ! 『小さなおうち』とは、またちがった魅力がある。
そうこうしているうちに、芥川賞と直木賞の候補作が発表に。