妊娠中・授乳中のインフルエンザ対策、ベストな方法は?
インフルエンザワクチン、妊婦や授乳中のママへの影響はある?
※編集部注:2015~2016年の流行状況は国立感染症研究所「インフルエンザ流行レベルマップ」で確認できます。
幸い日本では、高熱、筋肉痛などの症状が出てから48時間以内に医療機関を診し、迅速検査で診断が確定すれば、タミフルやイナビルといった抗インフルエンザ薬を早期に投与したり、適切な対症療法を受けたりすることができます。
一方、インフルエンザワクチンや抗インフルエンザ薬には頼らずに自然治癒力で治したいと考える人もいるでしょう。妊娠中や授乳中だとなおさら、赤ちゃんへの影響も心配になるものです。
今回は、季節性インフルエンザ対策にはどんなものがあるかを紹介しましょう。
インフルエンザワクチンは重症化を防ぐためのもの
私自身は、毎年ワクチンを接種します。それは自分自身のためとともに、妊娠中・授乳中の方や抵抗力の弱い乳幼児に伝染させないためです。ワクチン接種で完全な予防はできませんが、重症化を防ぐことはできます。ワクチン接種は免疫システムにウイルスのタイプを記憶させる作業です。例えば、入学試験対策では、過去問題や新傾向の予想問題を解いて備えます。自分の実力だけで試験を突破する自信のある方には必要のないことですが、試験当日「あっ、この問題、以前に解いたことがある……」となればしめたものです。
ただし、予想は外れることもありますし、接種10万人に数人の割で重篤な副作用が起こる可能性も否定はできません。産婦人科専門医の診療ガイドライン(2014年版)でもワクチン接種を推奨していますが、ワクチン接種をしない考えにも配慮し、ワクチン接種を強制はしていません。
インフルエンザワクチンは妊娠中も授乳中も接種できる
ワクチン接種回数は1回で、流行が本格化する前の10~11月に行い、免疫効果が4~5カ月間続きます。現在使われている不活化インフルエンザ・ワクチンで流産や先天異常の危険性が高くなることはないとされており、接種は妊娠の全期間、および授乳期にできます。妊娠中にワクチン接種することで、生まれた児の予防にも役立つことがわかっています。免疫効果が成立するまでに2週間かかるので、出産が近い方は早めに接種しましょう。
現在使われているワクチンには、保存剤としてエチル水銀(チメロサール)を含む製剤と、含まない製剤があります。保存剤添加ワクチンも安全性に問題はありませんが、念のため妊婦には保存剤無添加の製剤を使うように勧められています。インフルエンザが本格的に流行する頃には、その年度の保存剤無添加のワクチンの在庫が切れることもありますので、早めの接種が必要です。
赤ちゃんにワクチン接種、抗インフルエンザ薬投与はできませんから、赤ちゃんと接する機会の多い同居家族にもワクチン接種をお勧めします。「ワクチンを受けていない人は赤ちゃんの面会禁止!」ですね。
インフルエンザの感染を予防するポイント
十分な休養と睡眠が大事
・咳、くしゃみは素手ではなく、ティッシュなどで口と鼻を覆う。
・うがいや健常者のマスクは日本の良い習慣です。妊娠・授乳期もうがい薬は使用可。
・十分な休養、睡眠、栄養を取り、免疫力を保ちます。保温も大事。
・流行期には不必要な外出を避ける。
・室内の換気や空気清浄機、湿度を50~60%に保つなども有効。
発症時には水分やビタミンの補給が有用ですから、インフルエンザの流行期にはスポーツドリンクや経口補水液などを10リットル程度と、効能に「発熱性消耗性疾患・妊娠授乳期などの栄養補給」と記載された医薬部外品の栄養ドリンクを備えておきましょう。
インフルエンザを発症…治療のための薬はどんなものが?
前出のとおり、妊娠中・授乳中にインフルエンザを発症した場合、妊娠の全期間、および授乳中で抗インフルエンザ薬を使用できます。抗インフルエンザ薬には、次のようなものがあります。
・タミフル(内服)
・リレンザ(吸入)
・ラピアクタ(点滴)
・イナビル(長時間作用吸入)
いずれも妊娠、授乳中の使用は可能ですが、インフルエンザのタイプや流行情報、薬の使用方法の違いなどから医学的な判断で使い分けられます。タミフル、リレンザは使用経験が多く、安全性も高いとされています。
医療機関によっては、通常の外来受診とは手順が異なります。あらかじめ、妊娠中でインフルエンザを疑う症状があることを電話で伝えてから受診しましょう。待合室で待たされることなく、診察してもらえる場合もあります。
抗インフルエンザ薬を服用していても授乳は続けられる
授乳中に発症した場合も、重症化していない方は抗インフルエンザ薬を使用しながら授乳を続けることができます。もし入院中なら、他の母子との接触を避けるために、個室隔離となる場合もありますが、発症の時期や施設の実情によっても指示は異なります。なお、同居家族など身の回りの人がインフルエンザを発症した時、抗インフルエンザ薬を予防的に投与することは認められています。ただし健康保険は適応されず、自己負担となります。
インフルエンザを自然治癒力で治すには限界がある
本来、インフルエンザは自然治癒力で治るというのは、その通りです。確かに、インフルエンザに罹っても症状の軽い人もいますが、それはその人の免疫システムが優秀ということです。免疫には個人差がありますから、その人の経験が他の人にも通用するとは限りません。発熱、頭痛、関節痛などの辛い症状に対しては、2リットル以上の飲水と保温で発汗を促し、症状の改善をはかります。妊娠中に使える解熱鎮痛剤はアセトアミノフェン(コカール、カロナールなど)だけです。特に、妊娠後半期にボルタレン、インドメタシン、ロキソニンなど解熱鎮痛剤を自己判断で使うことは胎児にとって危険です。総合感冒薬なども使いません。
とはいえ、症状を緩和させ、休養を取らずに仕事などを頑張ることは非常に危険ですし、周囲の人にウイルスをまき散らすことになります。人生で経験したことがないほどの症状の時は、産科の担当医に電話で連絡して指示を仰ぎましょう。自然治癒力にも限界があります。感染症専門医のいる施設に搬送、入院治療となる場合もあります。
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インフルエンザの予防と治療(2015年~2016年シーズン)