意志が強くても止められない覚せい剤
覚せい剤の後遺症で脳に修復できないダメージが残ってしまった場合、長期にわたる治療が必要です
薬物依存は強い意志がなくては止められません。しかしこれは、「強い意志さえあれば止められる」ということではありません。
強い意志がある人ですら、適切な治療を受けなければ止められず、また長期間に渡って再依存の可能性に怯えながら、治療を続けなければならないのです。それまで強い意志と努力で、人一倍華やかな人生を順調に築いてきた人ですら、安易な薬物利用に一生を狂わされてしまうのはこのためです。
覚せい剤による脳のダメージは修復できない
覚せい剤は「気分がよくなるもの」「使うとスカッとするもの」など、一時的な気分に働きかけるものだと思っていませんか? 覚せい剤の影響は決して一時的なものではありません。私たちの脳には、化学物質による刺激を受けることで、元に戻らなくなるほど変化してしまう部分があるのです。覚せい剤による後遺症は、この「戻ることのない変化」が脳に生じることで起こります。最近の研究では、覚せい剤を使用することで、脳に一種の炎症が起きてしまうという見解もあります。
例えば風邪薬を始めとする普通の薬の場合、服用を止めて一定期間すれば身体への薬の影響はなくなります。これを専門用語では「ウォッシュアウト」と言います。しかし覚せい剤にはこの作用がありません。一度摂取した薬物の影響がずっと身体に残ります。
強い意志と本格的な治療で覚醒剤を止めたとしても、長期間経ってから薬物使用時と同様の妄想や幻聴などの症状が突如起きることも。日本語に訳さず、「フラッシュバック」と呼ばれています。体内にできた化学物質が過去の覚せい剤の影響で、まるで覚醒剤のように作用してしまうためと考えられています。フラッシュバックによる不快な妄想や幻聴、強い不安感などの症状から解放されたくて、再び覚せい剤に手を伸ばし、悪循環に陥ってしまう人も少なくありません。
一度覚せい剤に手を染めると、元の身体には戻れなかったり、長期間苦しむことになったりするのは、このフラッシュバックがあるためとも言えます。
覚せい剤の後遺症
覚せい剤には後遺症があります。興奮系の薬剤の場合、薬の利きが悪くなっていくもの(耐性化)と、逆に少量で効果が出るようになるもの(逆耐性化)があります。特に後遺症と関係するのは、「フラッシュバック」とも関係する「逆耐性化」の方です。覚せい剤により興奮する脳の部分は、感情(情動)、睡眠、記憶に関係しています。覚せい剤を使用することで、幻聴、幻覚や妄想(被害妄想)が起きてしまいます。本人は現実と区別がつかないので、身に迫る恐怖感を感じますが、客観的に見ると錯乱状態に陥っている状態になります。
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