「てくてく歩こう」。小さい頃から使っている親しみのある言葉。 その響きにインスピレーションを得て、お店の名前にしてしまった。 お母さんと一緒に訪れた、幼稚園の子供でも覚えてくれる。 下北沢の喧騒から離れ、住宅街にさしかかった頃、ぽつんと一軒。 ほっとするような佇まいで、暖かくのんびりと迎えてくれる。
左:てくてく歩く足跡をかたどった看板。
右:「teq-teq」というスペルにしたのはフランスっぽい響きだから
ここではパンも販売している。以前はパン焼き担当の人がいたが、現在は オーナー自らパンを焼く。毎日は作れないそうだが、パンを焼く日は朝6時半には お店に入っている。午前中はパンの香りで店内が満たされる。「早起きは 気分いいです。大変だけれど、お客さんが喜んでくれるとついつい作ってしまう」。 この日もパン目当てのご近所さんが次々に訪れ、「チーズのやつ、おいしかったわよ」 と会話も弾む。まるでお母さんが作ったような、素朴であたたかいパンだった。
パンが焼けると看板を出してお知らせ
お店の奥にあるキッチン。
オーナー・Tさんは、もともと大手雑貨店で働いていたが、 どうしても和食器をやりたくて、洋服と和食器を扱うアパレルに転職する。 そこで仕入れを学んだり、作家ともつながりを持ったそうだ。 さらに新店の店長を任され、店の運営を経験した。 そのお店を辞めたとき、やっぱり自分のテイストのお店をやりたいという思いがふくらみ、 物件を探したり、セミナーに通ったりした。予算や間取り、キッチンが付いていること、 などの条件でようやく今の物件を見つけ、昨年5月にオープン。 物件探しはやはり大変だったようだ。 現在の苦労はあえて言えば経理。お金の扱いはちょっと苦手で、特に確定申告など面倒なことがいろいろあるという。 でもスタイリングをやりたかったTさんは、自分で店内をディスプレイするのが楽しいんだとか。 一人でもくもく動いているのが好きで、忙しいほうがやる気が湧いて、 いろいろなアイディアも思いつくのだそう。一人になってパワーアップした、 と笑いながら話す。
お店の真ん中にテーブル。様々な作家の作品が並ぶ
陶芸を中心にガラスや布小物など、十数人の作家の作品を扱っている。 知り合いや、直接個展に行って交渉したり、インターネットを通じて見つけたものなど、 自分の好きなイメージを大切にしている。シンプルで使い勝手が良く、どこか愛嬌を感じるものが多い。 最近は作家からの売り込みも増えてきたそう。作家さんたちと話をするのも楽しみの一つ で、それぞれの人柄などが分かってくると、作品にもその性格が現れてくるから、 ものへの想いも深みを増す。
ガラス類は中野幹子氏のもの。真ん中のチーズボードはオリジナル。
小さく手書き風に書かれたteq-teqの文字が愛らしい。
しかし、「うつわ屋」というとなんとなく入りにくい印象。その雰囲気を 柔らかくするために、パンも置くことにする。もともと手作りは好きだったが、 パンと焼き物には共通点が多い。オーブンから出てくるまで、どんな仕上がりか分からない、 その面白さにはまった。お店自体もキッチンをテーマにしたかったんだそう。
パンはあっという間に売り切れる。
店舗は下北沢の駅からはちょっと遠い。本当にてくてくと歩いていくイメージ。 だからわざわざ歩いて来てくれた人のために、一休みできるようなスペースが あればいいなと思っている。パンのおかげで常連さんも増えた。 パンを食べられるような空間をいつか作りたい、とTさんは考えている。 また、パンと同じようにうつわも身近にあるもの。普段使いしてもらえるように、 今後はパンや雑貨たちをもっと近づけた提案をしていきたい、という。
上左:シナモンの枝で作られたほうきはシアトルから。
上右:ほのぼのとした姿かたちの作品が並ぶ。
下左:木の風合いが良いスプーンやチーズボード。
下右:色使いが独特な鍋つかみも作家もの。
お客さんが入ってくると、何気なく会話を交わして、ほっとした気分にさせる。 Tさんの気さくで柔らかい人柄が、そのままお店の雰囲気に馴染み、 ついつい長話してしまう。去りがたい気持ちを引きずりつつ、 ほかほかのパンを抱えて、ようやく店を後にした。
teq-teq(テクテク)
東京都世田谷区北沢4-17-7 KAZU北沢1F
tel 03-5454-2939
12:00~20:00 水曜・第2第4日曜定休
http://www.teq-teq.net/