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恵比寿駅からガーデンプレイスの方へ。アメリカ橋を渡り、目黒方面に続く道を歩いていくと、 小さな路地の一角に、不思議な店構えがありました。 蔦が生い茂る花壇と、手作り風に白く塗られた壁。 どこか清々しい空気が漂うその店に、ついふらっと 吸い込まれました。
広告をメインにデザイナーとして活躍していた干場邦一氏が、 2000年に独立して立ち上げたデザイン会社が、株式会社カタチです。 スタートしたのは大阪弁天埠頭の忘れ去られたような 朽ちた建物の一角だったそうです。 でもそこには広く大きな窓があり、さわやかに海風の吹く水路が 一望に見渡せる、気持ちのよい場所でもありました。 お店に入ったときに感じた清々しさは、どうやらそのときの 海の空気が、そのまま全体のイメージの中に染み込まれているからのようです。
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ブロックを積み上げた棚に陳列したり、天井に角材を渡して服を吊ったり。
素材をそのままに、手作り感のある店内。 天井まで全て自分達でペンキを塗った。
デザインに垣根を持ちたくない、という思いから、 グラフィックにとどまることができなかった干場氏は 「no quiet」というブランドを立ち上げました。 家具、アパレル、雑貨、アクセサリーなど、 生活に関わるものをトータル的にデザインし、 干場氏オリジナルのイメージを作り上げています。 no quietのブランドコンセプトは、 「ずっと使い続けられるデザイン定番商品」 「基本デザインはそのままに、マテリアルが変わる商品」 そして「made in japan」だということ。 日本製ということに対するこだわりの一つは、 職人とのつながり。デザイナーと職人が直接顔を合わせて頻繁に やりとりを行い、長い付き合いの中から、 お互いに納得のいくものを作り上げていきたいのだそうです。
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遊び心を持ちながら、着易さも考えられたデサインのTシャツ
干場氏の造り出すプロダクトには、一見とてもシンプルでありながら、 使う人が一緒に考えて楽しむような要素が含まれています。 たとえばバッグには、スナップボタンがたくさん付いていて、 それ自身をデザインとして魅せながら、 大小様々な大きさや色のものを組み合わせて遊び心を持たせ、 収納量を増減させる実用性を兼ね備えています。 ネジを回したり、パイプを通したりして、自由に かたちを変えるデザインのバッグもあります。 気分や用途によって自分でカスタムメイドする楽しさに、 子供の頃のブロック遊びのようなワクワク感が湧き上がります。
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上:スナップボタンで組み合わせを自由に変えられるバッグ
下:財布やフリーケースを繋げてショルダーになるバッグ。本革製
指輪やバングルなどのアクセサリーも作っています。 木をくりぬいただけの素朴なケースを、 上下二つ合わせて蓋ができるようにし、収納しておくこともできれば、 インテリアとして飾ってもオブジェのような面白さがあります。 真鍮、アルミ、シルバーなど、素材の持ち味を大事にしているので、 つけてみると柔らかみや温かさを感じ、 使い込むほどに味わいを増す楽しみもあります。
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飾って眺めるだけでも不思議な面白さがあるアクセサリーたち
干場氏の作品は、ミュージアムショップなどでも見かけることができます。 森美術館や原美術館、豊田市美術館など、 コンセプトのしっかりした美術館に親しまれているようです。 また、全国のこだわりあるセレクトショップ等でも取り扱いがあります。去年からはフランスのコレットでも販売を開始。 今年の秋にはロンドンで行われる「100%デザイン」という見本市にも 出展が決定したそうです。 日本の中での生産にこだわりながら海外にも目を向け、 幅広く活動を続ける干場氏が、これからどんな作品を生み出すのか、今後も 注目したいアーティストの一人です。
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レシートロールのカレンダー。本物を使っているので、
たまに紙切れを示す赤いラインが出てくることも。
no quiet base shop
東京都目黒区三田2-4-3
TEL 03-5773-1566
11:00~20:00 水曜定休
http://www.katachi.jp/