外観
入り口にはカゴがいっぱいでマーケットのような楽しさ。
看板は、会社で使っていた57年前の棚板をリメイク。

谷中は、行く度に何か楽しくていいことのありそうな町。 細い道を迷路のように迷いながら、小さなお寺を偶然見つけたり、 思いがけない味のある風景に出会ったり、ネコと気まぐれに遊んでみたり。 うろうろとさまようように散策していると、パッと空の開けた坂のてっぺんにたどり着きました。 「夕やけだんだん」と呼ばれる商店街の続く階段の上。 その少し脇に、暮らしの道具を扱う楽しいお店がオープンしました。

大量生産でも美術品でもない、自然商品の店

店の様子
戦時中のバラック小屋?!昔の窓はそのまま残してリノベーション。
お店の名前は「暮らしの道具 谷中松野屋」。 店の前の小さな広場には、たくさんのカゴが 無造作にわあっと並んでいて、ワクワクするような楽しさです。 少し昔の懐かしい日本のようであり、異国の猥雑なマーケットのようでもあり。 気取らない雰囲気のせいか、訪れるお客さんも様々で、 近所のおじいちゃんおばあちゃんから若いカップル、観光に来た外国人も、 みんな吸い込まれるように中へ入っていきます。

松野屋は、昭和20年より続く馬喰町にある卸問屋さん。 ブリキのバケツやほうき、ザルなど、日常使いの”荒物”や、 丈夫で使い勝手の良いかばん、職人仕様の長靴など、 無名でありながらも質の良い道具の数々を扱っています。 創業時はまだ”雑貨屋”などない時代でしたが、 文化屋雑貨店がオープンし、だんだんと雑貨ブームが高まるにつれ、 その先端を行くような雑貨店のオーナーやバイヤーがたくさん来るようになったそうです。

「雑貨の全盛期を肌で感じることができた、面白い時代でした。 その後100円ショップや低価格の衣料品店が増え、 最近はみんな同じ方向を向いている。大量生産の安いものが 巷に溢れている中で、 自分は昔からコツコツと作られている良いものをどうしても残したかった。 もういい年でしたが、地に足の着いた商売をしたいと思い、本腰を入れました。 美術品でも民工芸でもなく、しかし大量生産の石油製品ではない。 自然素材で程よく生産されているもの。結局自分の好きなものなんですが、 そういったものを、ここでのんびり発信できたらと思います。 自然食品の店は最近増えましたが、自然商品の店があってもいいと思いませんか?」 と語るのは、社長の松野弘さん。  

店内の様子
店内は工夫を凝らし、それぞれにストーリーがあります。

店となった建物はかなり古いようで、奥の一部は明治時代の洋館だったのでは?との話。 外から見ると、壁の曲線などほのかに面影の残っている箇所があります。 手前の方は終戦前後に建て増ししたバラック小屋だったようで、 入ってすぐ天井を見上げると、外壁と内側の隙間に「囲碁 将棋 天狗倶樂部」 の看板が!(写真一番上)。隣りには「富士書房 新刊図書」という看板もあり、 2つの店が並んで建っていたようです。 あえて取り壊すことはせず、面白い部分は残したままリノベーション。 店のあちこちに昔の痕跡を見つけることができます。

また、アイディアを生かした内装のディティールも面白く、 例えば、店内の裏側に行く扉の取っ手はざっくりと切った革で手作り(写真中右)。 入り口のライトは、昔、電柱の街灯に使っていたものだそうで、 今はもう見ることのない、木の台座が付いています。 建物の両脇には”うだつ”に見立てた木のカバーが付いており、 これはライトの雨よけ用に作ったそうですが、 およそ60年前のお寺の床の間の木を、開店当日に知り合いの大工さん が取り付けてくれたとか。よく見ると、大工さんの焼印が押してあります。 一番下左の写真は、木工作家・古橋治人さん作の木皿。 オープニングに遊びに来てくれた古橋さんが、レジのおつり皿用にと プレゼントしてくれたそうです。 内装や什器のひとつひとつに隠れたエピソードがあり、 そんな興味深い話を聞くことも、この店を訪れる楽しみのひとつになりそうです。


店内の様子
気さくで居心地の良い店です。

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