癌(がん)/大腸がん・直腸がん

直腸がんの治療法・予防法

直腸がんの治療法や予防法は、基本的には大腸がんと同じ三大療法。ただし外科治療の場合、人工肛門を伴う手術になるかどうかが問題になることがあります。直腸がんの治療法・予防法のポイントを解説します。

狭間 研至

執筆者:狭間 研至

医師 / 癌ガイド

直腸がんの基本的な治療法

直腸がんも、ほかのがんと同様、手術、抗がん剤、放射線という三大療法が基本になります。また、その基本方針は大腸がんと変わりません。しかし、直腸がん特有の問題も存在します。

直腸がん治療も三大療法が基本、基本方針は大腸がんと同じですが、直腸がん特有の問題も存在します

直腸がん治療も他のがん同様、治療の基本的な考え方は決まっています。手術、抗がん剤、放射線という3つの治療法の組み合わせです。

組み合わせ方法や基本的な考え方については、大腸がんと同様。手術についてもがん細胞を完全に取り除けるように腫瘍本体に十分なマージン(余分)をつけて切除し、周辺のリンパ節を郭清(かくせい=きれいに取り除いてしまうこと)するという方針は同じです。

ただし直腸は便を溜める機能を持っていることと、便の出口である肛門に近い、という2つの特徴がある点で、大腸がん治療以上の配慮が必要になる箇所でもあります。詳しく解説しましょう。
 

直腸の役割と便が出るメカニズム

快食、快眠と並んで快便は、生活の質を左右する非常に大きな要素です。快便のためには、直腸の存在は非常に重要ですが、直腸がんの手術では、根治性を確保しつつ直腸・肛門の機能をどのように残せるかがポイントになります。

快食、快眠と並んで、快便は生活の質を左右する非常に大きな要素。快便のためにも直腸の存在は非常に重要

普段は当たり前で意識することがありませんが、便を出すための機能は「出してはいけないときには絶対に出さないが、出していいときには気持ちよく出せる」という二律背反する条件を満たしていなくてはなりません。

そのため、直腸の出口に2層に渡って備えられているのが「肛門括約筋」。通常は便が出ないように閉じていますが、直腸に便が溜まってくると直腸周囲のセンサーが反応して便意を催すとともに、腸の蠕動運動が高まって排便への準備を整えます。トイレに入り排便準備ができると意識的に肛門括約筋を緩め、いきんで腹圧をかけることで直腸に溜まった便を一気に排便することができます。赤ちゃんは排便後に機嫌がよくなりますし、私たちも経験しているように「快便」はその言葉通り本当にスッキリするものです。肛門の手前の直腸と肛門括約筋によって、このように私たちは便を出すコントロールできているのです。

直腸がん手術では肛門への近さや症例によって、この肛門括約筋や、場合によっては肛門そのものが切除すべき部位に含まれる場合があります。便のコントロールは生活の質に関わるので、がんを完全に取り除くことに加え、直腸・肛門の機能をどのように残すかが治療のポイントになります。
 

直腸がん治療で人工肛門を選択するメリット

直腸や肛門部分を切除する場合、人工肛門を造ることを検討します。人工肛門を造らずに治療が済むのならそれが一番という考えは医師も同じですが、直腸がん治療を行う上で人工肛門を選択することにも大きなメリットがあるのです。

■ 排便の管理がしやすくなる
人工肛門を造らずに肛門括約筋ぎりぎりまで切除すると、便を溜めることが困難になり、日常生活に支障を来たすことがあります。機能が不完全になることで排便コントロールの不安に悩まされるより、人工肛門を造ってパウチという袋で排便の管理をした方が、便によるにおいや汚染に悩まずに済むことがあります。

■ リンパ節の切除が確実にできる
直腸がんの手術で肛門を残す場合、解剖学的な構造として肛門側の直腸周辺のリンパ節が郭清(かくせい)しづらいケースがあります。がんの手術の場合には、機能の温存もさることながら、やはり根治性の確保が重要。よって肛門そのものも含めて切除する術式(マイルス手術)が選択されることも多く、そのような場合には人工肛門の造設は必要になります。逆に考えると、人工肛門という選択肢があることで、直腸がんをより確実に治す治療法の選択が可能になるのです。

人工肛門には上記のような大きなメリットがあるものの、患者さんが一人で理解し、人工肛門にすることを決断することは現実的には難しいもの。その場合は主治医の考えだけでなく、セカンドオピニオンを受けることでより納得のいく選択をすることができます。人工肛門に関するセカンドオピニオンについては「大腸がん治療時のセカンドオピニオン」にまとめていますので、併せてご覧ください。
 

 直腸がんの予防法・早期発見法

直腸がんの予防においては、やはり、バランスのとれた和食中心の食生活や、禁煙が重要です。

まずはバランスの取れた和食中心の食生活と禁煙から、直腸がん予防をスタート

直腸がん予防も、基本的には大腸がんの予防法と同じ。食事の欧米化や高い喫煙率という背景に比例して患者数が増えていることを考えると、やはり食事の内容を和食中心にして脂っこいものを控えるといった食生活への配慮と禁煙は非常に重要です。

近年では肥満による体内での脂肪の蓄積が下部消化管の悪性疾患(がん)を誘発するのではという研究結果も報告されています。メタボ解消やウェイトコントロールが直腸がん予防に有効だと明らかにされる日も近いかもしれません。

予防しきれなかった場合はとにかく早期発見が第一。直腸がんは場所的に肛門に近いため、排便時などに鮮血の出血が見られます。排便時の真っ赤な出血は痔の可能性もありますが、直腸に近いポリープや直腸がんの初期症状の可能性も考えられるので、ただの痔だと安易に判断しない注意も必要です。

年に1回の健康診断、がん検診を基本として、早期発見が早期治療につながることを念頭に。毎日の便の状態を注意して見る習慣を持つことも、大切な予防法の一つなのです。

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