前立腺の「辺縁領域」にできる腫瘍
前立腺がんは「辺縁領域」と呼ばれる部分の細胞が無秩序に増殖を繰り返す病気
前立腺がんは、前立腺をいくつかの領域に分けたときの「辺縁領域」(以前の呼称は外腺)と呼ばれる部分の細胞が何らかの原因で無秩序に増殖を繰り返す病気です。これに対し、前立腺肥大症は「移行領域」(同、内腺)という部分にできる良性腫瘍です。
前立腺がんが起こる詳しい仕組みは良く分かっていません。ただ、発症には加齢が関係していることや、男性ホルモンを抑える薬が効くことなどから、男性ホルモンが関わっていることは確かです。
飛躍的に高まった発見率
前立腺がんは近年、急増しており、日本における発生率は25年先に現在の5~6倍になるといわれています。急増の原因として考えられるのは高齢化社会の到来です。食生活の欧米化や高脂肪食の定着化も深く関わっているようです。このほか、データ上で増えてきた原因として考えられるのは、前立腺肥大症の項目で説明したPSA(前立腺特異抗原検査)のような検査法の発達で前立腺がんが早期発見できるようになったことです。PSAの登場する以前は発見されるもののほとんどが進行がんでした。
その意味では、前立腺がんの頻度が増えたというよりも、発見率が上がったといえるかもしれません。
80歳以上の7割前後が罹患
病理解剖の報告書によると、80歳以上の7割前後の人に前立腺がんが認められています。ただし、それがそのまま死亡原因になっているわけではないので、一種の「潜在がん」といえるでしょう。たまたま、がんはあったけれども、症状として現れず、命にも関わらなかったというだけで、息を潜めていたというわけです。昔は骨に転移して痛みや出血、血尿などで初めて見つけられたものです。
日本では1990年代から実用化されたPSAが全国の78%の市町村で老人健診に組み込まれているそうです(2006年時点)。背景には、今上天皇がかかられたという事情があるのではないかといわれています。
前立腺がんのステージ(病期)分類
前立腺がんでは、進行の度合い(ステージ、病期)を「TNM分類」という方法で判定します。がんが前立腺の中にとどまっているかどうか(T)、前立腺からのリンパ液が流れているリンパ節(所属リンパ節)に転移しているかどうか(N)、離れた臓器に転移しているかどうか(M)――が目安となります。【TNM分類】
■T1
触診または画像上で認められず、前立腺肥大症や膀胱がんなど、他の手術で偶然に見つかる状態
- T1a=手術の5%以下にがんが見つかる
- T1b=手術で切り取った組織の5%を超えた部分にがんが見つかる
- T1c=針生検で発見(PSA上昇)
■T2
前立腺の中にとどまっている状態
- T2a=左右どちらかだけに存在
- T2b=左右の両方に存在
■T3
前立腺被膜を越えて広がっている状態
- T3a=被膜外へ広がっている
- T3b=精嚢(のう)に広がっている
■T4=膀胱や直腸などの隣接臓器に及ぶ状態
- N0=所属リンパ節への転移がない
- N1=所属リンパ節への転移がある
- M0=遠隔転移がない
- M1=遠隔転移がある