良性腫瘍と悪性腫瘍の違いとは
良性腫瘍と悪性腫瘍。一体、どのように違うのでしょうか? どのように見分けるとよいのでしょうか?
では、良性腫瘍と悪性腫瘍は、どう違うのでしょうか。そして、それらは、どのように見分けるのでしょうか?
実は、私が研修医のころ、手術に入った時に、不思議に思うことがありました。それは、手術で切除した腫瘍をみて、先輩の先生たちが「あー、これは、典型的ながんやなぁ」とか、「これは、まぁ良性っぽいね」という話がでて、私以外のすべての先生が、「うんうん」といった感じで納得されていることでした。
私1人が、他の先生が話すのを聞きながら、「一体どこを見ているのだろう?」と不思議に思ったものです。
しかし、先輩の先生に説明してもらったり、自分でも症例を経験していったりするうちに、1年もするとそれぞれの特徴が分かるようになってきました。そのポイントは、大きく2つあります。
悪性腫瘍であるがんは、しこりに独特の硬さがあるのが特徴
一つは、腫瘍の硬さ。がんは、やはり、正常の組織に比べると硬いのですが、硬ければ硬いほどがんを疑うかというと、そうではありません。小石のようにカチコチのものは、石灰化など良性変化のことも多いのです。また、柔らかすぎるものや、中に水がたまったようなふにゃふにゃのもの、グミのような弾性に富んだ柔らかいものも、良性であることが多いです。
表現が少し難しいのですが、がん独特の硬さというものがあります。
もう一つのポイントは、腫瘍の周辺の状況です。これが、カプセルに包まれた様につるっとしている場合には、良性であることが多いです。一方、がんの場合には、辺縁がギザギザで境界がはっきりしていないことが多いです。
これらは、いわば、硬さや見た目の変化ですが、もっと根本的な違いが、良性の細胞とがん細胞の間にはあります。
次に良性腫瘍と悪性腫瘍を見分ける根本的な違いについて解説します。
腫瘍ができるのはなぜ? 細胞が増殖するときの規律
私たちの体の細胞は、すべて、新陳代謝を繰り返しています。すなわち、古くなった細胞が死滅していく代わりに、細胞を増殖させ新しくしているわけです。その際に、細胞の情報であるDNAがコピーされるのですが、このコピーの時のミスががんの原因となります。そして、この細胞の増殖には、規律があります。つまり、それぞれの細胞によって、その増殖の仕方には決まりがあるわけです。
たとえば、爪。爪は、毎日、少しずつ伸びていきますが、必ず爪先の方に向かってしか伸びません。指の腹の方まで覆ってしまったり、指全体が爪で覆われてしまったりということはありません。つまり、自らの分をわきまえ、境界を乗り越えることは決してないわけです。
分をわきまえない細胞、それが「がん細胞」です
腫瘍の良性と悪性を見分ける違いも、まさにこの「分をわきまえているかどうか」がポイントになります。たとえば「脂肪腫」と呼ばれる脂肪の塊のような良性腫瘍がありますが、これが増えるのは脂肪組織の中だけで、腫瘍の細胞が筋肉や骨の中に食い込んで大きくなっていくことはありません。
しかし、がんの細胞はこういった決まりはお構いなしに増えていきます。胃の内側の粘膜にできたがんも、進行すると、胃の壁を突き破って、膵臓へと浸潤することもあるわけです。こんなことは、良性の細胞では、起こらないことです。
分をわきまえず、境界を乗り越えて周辺の組織に浸潤していくというのが、がんの特徴なのです。