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日曜日の政治用語解説 大連立政権

自民党と民主党で「大連立政権」の話をしてうまくいかなかったとか、いろいろ報道がなされています。「大連立政権」とはどういうものなのでしょう。他国では例があったのでしょうか。

執筆者:辻 雅之

(記事掲載日/2007.11.4)

今週の政治用語解説は、政局がらみで大きな話題になった「大連立」についてです。大連立とはどのようなことをいうのでしょう。そして大連立政権のメリット、デメリットとは?

大連立政権とは?

国会議事堂
野党がほとんどなくなってしまう? 大連立政権=ほぼオール与党
普通の連立政権は、一つの党だけで議席の過半数をとれない状況などにおいて、複数の党の勢力が過半数になるような連合を作り、それによる政権(内閣)を作ることを言います。

もっとも、現在の自民党と公明党のように、自民党が過半数を大きく超えていても連立政権を維持する場合があります。公明党との連立を解消してしまうと、参議院での勢力がおとろえ、政権運営が難しくなるからです。

普通、連立政権は過半数を少し超える程度の勢力で構成されることが多く、野党となる政党勢力も大きい場合が普通です。

しかし、いわゆる「大連立政権」では、ほとんどの政党が連合し、国会勢力のほとんどが連立政権を構成することになります。特に定義があるわけではありませんが、議席の80%~90%が連立政権の議員によって占められる場合を普通「大連立政権」というようです。

また、二大政党制、またはそれに近い政党制となっている国で、普段は政権獲得を目指して対立しているはずの2つの二大政党が連立することも「大連立」ということがあります。

いずれにせよ、本来争うべきはずの政党、日本でいうと自民党と民主党が、何かのために一つの政権を作り、政党間の争いを極力なくすための方法として、「大連立政権」というものがあると考えてください。

大連立政権の例

大連立政権というと、イギリスの「挙国一致内閣」が例に挙がることがあります。

イギリスでは1931年と1940年、ほとんどの政党が参加する「挙国一致内閣」が成立しています。しかしこれは、世界恐慌や第2次世界大戦に対処するための臨時的、例外的なものと解釈され、「大連立とはちょっと違う」という人もいます。

よくいわれる意味で、いわゆる「大連立」ということになると1966年のドイツ(当時は西ドイツ)で誕生した「大連合内閣」が、例としてあがることが多いと思われます。

当時、ドイツではキリスト教民主同盟(CDU/CSU)を第1党として、自由民主党(FDP)とによる保守的な連立政権が運営されていましたが、1966年、その自由民主党が連立政権から離脱してしまいました。

困ったキリスト教民主同盟は、対立していた左派である社会民主党(SDP)と連立を組むことにしました。こうして、大半の議員が政権勢力に入るという「大連立政権」が誕生したのです(キージンガー首相)。

ドイツでは2007年現在も「大連立政権」です。やはりキリスト教民主同盟と社会民主党によるものです。総選挙をやっても僅差で、どちらも自分たちを軸にした多数派を作ることができなかったことから、大連立政権を作ったのでした。

大連立政権のメリット・デメリット

大連立政権のプロセス
大連立政権を長期的に安定させることは難しい?
大連立政権のメリットは、なんといっても政局が安定するということです。

特に現代のように経済も国際関係も複雑ななかで、政党の争いが熾烈を極め過ぎ、結果として国政が停滞してしまう危険性はないとはいえません。今の日本でも、それがいえます。

こうした状況を打開する手段として、大連立政権を作る意義があるといえます。

デメリットは、やはり国会の意味がなくなってしまうことです。

与党と野党がしっかり論戦してこそ民主主義なわけで、野党がほぼ消滅しているような状況では、国会における「議会制民主主義」はあってなきがごとし、ということになりかねません。

政治は国会という場ではなく、二大政党のそれこそ「密室の談合」によって決まってしまい、国民は大きな不満を持つことになる恐れがあります。

実際、1966年にできた大連立政権は、こうした議会の形骸化に対し、市民たちによる「議会外反対派」の運動が盛り上がってしまい、1969年には退陣を余儀なくされています。

政局の安定をはかるつもりが、結局はむしろ不安定をもたらしたというわけです。日本でも、このようなことを考え、大連立構想は慎重に進められるべきだといえるでしょう。

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※参考書籍・サイト
『ヨーロッパ政治ハンドブック』 馬場康雄・平島健司 2000 東京大学出版会 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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